自閉症スペクトラム者、痛みの感覚が鋭いから人付き合いを避ける?驚きの研究結果

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Credit: University of Texas at Dallas

センサリーデザイン最前線 第45回

TENTONTO編集長のユミズタキスです。ASD・ADHD者の感覚の違いに注目し、そこから生じる困難を解決する最新の『センサリーデザイン』の話題をご紹介するこのコーナー。本日は2週間前に発表された、ASDに関する脳科学の研究についてのニュースです。実は自閉症者の抱えるコミュニケーションの障害は、痛みを感じる感覚、つまり痛覚が多くの人と異なるために生じている可能性があるという、驚きの研究結果が出てきています。医療系の情報サイトMedical Xpressより日本語訳にてご紹介します。

https://medicalxpress.com/news/2017-07-link-autism-pain-sensitivity.html

研究により、自閉症と痛覚の感受性との関連が示される

2017年7月24日 フィル・ロス

17-studysuggestCredit: University of Texas at Dallas
 
 
テキサス大学ダラス校所属の神経科学者による新たな研究が、自閉症スペクトラム障害(ASD)と痛覚の感受性との関連を明らかにした。

ザオシー・グー博士主導のこの研究は、自閉症スペクトラム者が直面する痛覚と、それらの変化がどのように彼らの社会的な機能に影響を及ぼすのかについて概説する。

「この研究は、痛覚とASDにおける社会的な機能とを関連づける、いくつかの最初の証拠を提供します。ASDに関する多くの実験は、社会的機能障害の側面か、または感覚機能障害の側面かのどちらかに集中しています。しかし、この両方の側面を同時に扱う研究は殆どありません。」行動・脳科学部の準教授であるグー氏は語る。
 
 
European Journal of Neuroscienceで発表されたこの研究は、感覚処理において非常に明確な側面である痛覚にフォーカスしている。高機能ASDの成人が痛覚を予想して感じるとき、彼らの脳で何が起きているかを測定することがゴールだ。

研究者は被験者に対して微弱な電気ショックを与える刺激装置を使用した。被験者はどれぐらいの痛みまで耐えるつもりがあるかを取り決めておいた。被験者がMRIのスキャナー内にいる間に電気ショックを与えることで、被験者が痛みを予想したときと、実際にそれを経験したときとで、脳活動と生理的な反応を測定することができた。

前帯状皮質(ACC)は、痛みの予想をコード化することで知られている脳の領域のひとつ。スキャナー内で被験者が痛みの信号を受け取るまで待っている間に、脳のこの部位が活動しているのを確認できた。
 
 
グー氏は、この研究には3つの主な調査結果があると語った:
・過去の研究で報告されていた、ASD者が痛みに過敏であるという研究結果を確認できたこと。
・新しい発見として、非ASD者と比べ、ASD者が痛みの刺激を予想すると、前帯状皮質においてより大きな神経反応を起こすことを、調査は示した。
・これに加えて、痛みを予想している間により多くの脳活動を示す被験者ほど、共感指数(EQ)の質問表で低いスコアを取ることがわかった。グー氏は、自閉症者は感情移入がしばしば苦手であると言った。それはつまり、自分ではない人が何を感じているのかを理解する能力だ。自閉症者が直面する社会的な障害に、痛みの予想が関連することをこの結果は示す。
 
 
交流の場から身を引くことは、身を守る方法かもしれないと彼女は語る。

「痛みに遭遇する危険は、非ASD者にとっては日常の一部であり、普通のものです。しかし、そのことはASD者を圧倒する場合があります。したがって、私達の発見でひとつありうる説明として、身を守るために、ASD者は社会的な交流を避けるのかもしれません。痛みやその他の感覚体験に遭遇するリスクを減らす。非ASD者にとっては極めて普通のことでも、ASD者にとってはそうではないのです。」

研究結果に基づいて、ASD者に関わるセラピストと専門家は、とくに痛みに関わる感覚処理を助けるために、介入や治療の選択肢を増やすことを考えなければならない、とグー氏。

翻訳:ユミズタキス
 
 
ASD者に合併することが多いとされている不安障害や鬱といった二次障害。これらが後天的に生じるのはコミュニケーションがうまくできないことに原因であるとされていましたが、この研究はコミュニケーションの前段階として<傷つきやすさ>の度合いに注目している点が画期的と思います。ASDを持っていない方の感覚で言うと、例えばものすごく疲れているときに近いようなピリピリした心持ちが、ASD者にとっては平常のコンディションなのかもしれません。

痛みに関係のある感覚処理を助けるためのデザイン、と改めて『センサリーデザイン』としてご紹介してきたこのコーナーの事例を振り返っても、腑に落ちる設計になっているものばかり。この文章でも言及されているコミュニケーションの場に対して消極的になること、つまり引っ込み思案の点もそうですが、当事者の気持ちの切り替えの難しさや、リラックスが不得意で疲れやすい傾向についても、痛みについての感覚の違いからわかってくることがありそうです。