アスペは本当に共感に乏しい?

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センサリーデザインとは? 第10回

ASD & ADHD MAGAZINE TENTONTO 代表のユミズ タキスです。

このコーナーでは、私達TENTONTOが皆さまに一番お伝えしたいこと、センサリーデザインについて、僭越ながらご紹介させて頂きます。

今回は本コーナーの第8回で取り上げた共感化指数(EQ)に関連する話題として、2014年11月に発表された日本における最新の研究、『自閉スペクトラム症がある方々による、自閉スペクトラム症がある方々に対する共感』をご紹介します。

ASDを持つ人はASDを持つ人に共感できる

この研究は京都大学の認知心理学者、米田英嗣さんら複数の大学の共同研究です。ASDを持つ人とそうでない人の脳活動を fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて計測したところ、ASDを持つ人は、ASDの行動パターンをする他者に対してよく共感できるという結果が出た、とのことです。

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141105_2.html

以下にその概要を引用します。

 ASDがある方を対象とした従来の研究では、ASDがないTD(定型発達、Typically developing:TD)人物を対象に作られた文章課題を用い、ASD群とTD群を比較し、TDの人が作った基準によって結果を解釈する研究が多かったといえます。TDの人たちが自身と類似した他者について理解しやすいのと同じように、ASDがある人たちも自身と類似したASD特徴がある他者について理解しやすい可能性が考えられます。本研究グループの一連の研究から、ASDとTDの人たちを対象とした物語理解の研究において、ASDがある人はASDがある登場人物の記憶検索に優れることが明らかになってきました。

そこで、本研究では、ASDがある方々は、ASD特徴がある方々について考えるときに共感が起こるかどうかを脳科学的手法で検討しました。ASD特徴がある人物の行動パターン記述文(ASD文)と、TDの人物の行動パターン記述文(TD文)を、ASDの成人と、年齢、知能指数を合わせたTDの成人に読んでもらいました。呈示された文に関して、自分にあてはまるか(自己判断課題)、文の主語である人物が自分と似ているか(他者判断課題)どうかを判断してもらいました。その結果、ASDの成人はASD特徴がある人物を判断する際に、自己の処理、共感に関わる腹内側前頭前野が有意に活動しました (図)。

この結果から、ASD の成人は、自身と類似した ASD 人物に対して共感的な反応を示していることがわかりました。さらに、ASD人物を判断する場合、自閉症スペクトラム指数が高いほど、腹内側前頭前野の活動が高くなることがわかりました。したがって、ASD傾向が高い人ほど、ASD人物に対して共感的に理解している可能性が示唆されました。

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ASD群がASD文を判断し、TD群がTD文を判断する際に、腹内側前頭前野が有意に活動しました。なお、この脳部位において、自己判断課題と他者判断課題との間に活動の有意差はありませんでした。

感覚の違いと少数派ゆえの問題を切り離して考える

本コーナーの第8回で取り上げたサイモン・バロン=コーエンさんの提唱する共感化指数(EQ)は、一般的な社会的状況における共感について調べるものです。それは必ずしも、その人の共感という脳活動そのものの性質を調べるものではない、ということがこの研究で示唆されています。

人口比で1%程度存在するASD(自閉症スペクトラム、アスペルガーを含む)を持つ人と、女性の10%程度、男性の20%程度存在するBAP(幅広い自閉症の表現型、第8回参照)を持つ人は、社会全体から見れば少数派です。ひとりひとりの感覚の違いに着目したセンサリーデザインを考える際に注意するべきこととして、この共感に関する研究は重要な気づきを与えてくれるものだと思います。

上記引用ページの研究者からのコメントにも、『臨床場面への応用として、ASD傾向の強い方ほど、ASDがある方への支援者にふさわしいかもしれないという知見を提供できると考えられます。教育場面への応用として、特別支援学級をデザインする際にも有効な提言ができるかもしれません。』とあります。ここで言うASD傾向は、本コーナーの第9回でご紹介した自閉症スペクトラム指数(AQ)で調べることができます。
 
 
 
 

~こちらは2015/4/19公開の記事の再掲載です~