心拍数や皮膚の表面温度から”感情の爆発”を予測するリストバンド
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センサリーデザイン最前線 第18回
ASD & ADHD MAGAZINE TENTONTO メンバーのmarfです。
このコーナーでは世界で次々と生まれる、最新のセンサリーデザインをご紹介します。第18回は第16回に引き続き、自閉症とテクノロジーに関するカンファレンス、オーテック2015で発表されたアシスティブ・テクノロジー(補助技術)、「バイオメトリック・リストバンド」をご紹介。The Telegraphより一部和訳してお届けします。
ASC(自閉症スペクトラム症状)のひとつに、自分のコンディションをうまく把握できないことがあります。暑すぎたり、寒すぎたり、体の不調をうまく伝えられないとき、このリストバンドが役立つそうです。心拍数や皮膚の表面温度といった情報をリストバンドによって測定し、そこから得られた体調の変化を支援者がアプリでモニターできるというもの。気付かずに放っておけば不快になりすぎて”爆発”してしまうような状況でも、このシステムがあれば、適切なタイミングで家族や支援者が適切な処置を施せるかもしれません。
Biometric wristbands predict outbursts in people with autism
バイオメトリック・リストバンドがASD者の感情の爆発を予測する
皮膚の表面温度と心拍数を測定するリストバンドは、大きな行動の変化を予測することにより、ASD者の生活を変えられるソフィ・カーティス
2015年9月16日ASD者の身体を「調べる」ことができて、劇的な行動の変化を予測することができるバイオメトリック・リストバンドは、2~5年以内に市販が可能になるでしょう。
皮膚の表面温度や心拍数のような、精密な生理的変化を測定する機能により、ASD者の生活を変えることができる、とマシュー・グッドウィン博士(ASD者のウェアラブル・生体センサーの専門家)は主張します。
ボストン・ノースイースタン大学の彼のチームと共に、グッドウィン博士は軽量リストバンドを付けて働いています。それは腕時計に似ていて、4つの生理的信号 – 心拍数、皮膚の表面温度、発汗、センサーを付けている腕の三次元的動作を測定します。
このチームは、アプリによるリストバンドから携帯電話へのストリーミングシステムも模索しています。この機能により、家族や教師は密接に対象者をモニターすることができます。
重度のASD者、つまり、言葉やボディランゲージを通してコミュニケーションができないことがままある人々は、自傷行為、攻撃性と回避行動を含む、劇的な行動の変化に陥りがちです。
アメリカの10年間の研究を通して、グッドウィン博士と彼のチームは、生体信号はこれらのしばしば起こる激しい変化を未然に予測し、支援者に適切な措置をとるための機会を与えることができるかもしれない、という説を立てました。
「私達が研究しているASDを持った子ども達は、自分の身に何が起きているかについて私達に伝えることができません。彼らは頭痛がしていても、『ここはうるさすぎる』とか『この先生のことが好きではない』ということも言えません」と博士。
「彼らを理解したいならば、私達は彼らの体が私達に発しているものを見る必要があります – そしてそれを私達は穏やかに、控えめに行う必要があります。」
たとえば、アプリでは色のシンプルな視覚化により興奮の度合を示します。 – 赤は行動に関する変化の警告です。そして青は興奮していないことを示し、その人物が退屈して刺激不足になっていることを支援者に知らせます。
リストバンドからのデータは時間をかけて収集され、安全なサーバに保存されます。シチュエーションごとにどのような反応を示しているのかの全体像を支援者に伝え、どの処置が最も良いか知らせます。
「私は、私達が心を読んでいるわけではないということを、はっきりさせる必要があります。生体センサーは魔法ではありません – それら自体を読み解くため、更に人間を必要とします。」
このアプリが自閉症の特効薬となるように、さらにこの技術を開発するため、彼のチームはメーカーと共同で取り組むつもりだと、彼は付け加えました。
研究はジェーン・キャロラン(ウィラル自閉症協会のクライアント・サービス局長)に歓迎され、その技術は、10月1日にマンチェスターで開かれた自閉症とテクノロジーに関するカンファレンス、オーテック2015で披露されます。
「重度のASD者と働く際に私達がしているように、アシスティブ・テクノロジーが彼らの生活の質を作り出せるという劇的な変化を感じるでしょう。iPad用アプリは今、文字通り、これまで話さなかった人々に”声”を与えています。『いないいないばあ』で遊ぶことを覚えるように、ロボットはASDの子ども達をサポートしています。このイノベーションが私達をどこへ導くでしょうか」とジェーン局長。
「アシスティブ・テクノロジーは真に生活を変える可能性があります。そして私達は、誰にでもこの情報へのアクセスを確実にすることが自閉症慈善事業団体としての私達の使命の一部であり、今後私達がどのようにASD者の支援をしたいかという議論の一部だと感じます。」
生体センサー技術の分野では、このリストバンドのように身につけられる=ウェアラブルプロダクトとしての応用も増えているようです。とはいえ、ASD者を支援する分野では、まだ実例がありません。ASC由来の感覚過敏や感覚鈍麻によって得た不快さを、うまく自覚できない、伝えられない苦しみに気づいて、知らせてくれるアイテム。もし普及するようになったら、本人も支援者も日常生活の負担が軽減されるでしょう。アシスティブ・テクノロジーは、感覚の違いによる不自由を自由にしていく、未来のASD者に必須のセンサリーデザインとなるかもしれません。