共感に対する感覚の違い

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センサリーデザインとは? 第8回

ASD & ADHD MAGAZINE TENTONTO 代表のユミズ タキスです。

このコーナーでは、私達TENTONTOが皆さまに一番お伝えしたいこと、センサリーデザインについて、僭越ながらご紹介させて頂きます。今回も、第6回に引き続き『自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識』の著者でケンブリッジ大学の発達心理学者サイモン・バロン=コーエンさんの提唱する「共感化―システム化仮説」に登場する指標をご紹介します。今回はシステム化指数(Systemizing Quotient:SQ)と対をなす、共感化指数(Empathizing Quotient:EQ)をご紹介します。


「共感化―システム化仮説」は、ASDの社会性とコミュニケーションの困難について、「共感性の発達の遅れと障害」と、「完全か平均以上に強いシステム化の技能」との対比によって説明しています。前者の特徴を共感化指数(Empathy Quotient:EQ)、後者の特徴をシステム化指数(SQ)によって計測し、EQとSQの差(ディスクレパンシー)によってASDの傾向を判別します。共感指数(EQ)は近年日本でも広く知られつつある指数です。これらの指数は、刺激に対する感覚の違いからデザインするセンサリーデザインについて、理解を深めて頂くひとつの指標にもなり得ます。

共感化指数(EQ)を調べてみよう

今回も引き続きイギリスの新聞社ガーディアンのサイトに掲載されている共感化指数(EQ)の診断テストを取り上げます。

http://www.theguardian.com/life/table/0,,937442,00.html

私なりに和訳をしてみましたので、もし宜しければこちらもご参照下さい。

共感化指数(EQ)

共感化指数(EQ)はどれだけ容易に他者の感情を拾うことができるか、どれだけ強く他者の感情に影響されるかを測定することを目的とします。以下の60項目を注意深く読み、あなたにとっての賛成・反対がどの程度強いかを答えに丸をつけて評価してください。正しい答え、間違った答えは存在せず、また引っ掛け問題もありません。

テストの実施方法

1.このページをプリントして答えを丸で囲ってください。
2.このページの最後に説明されているポイントシステムを使ってあなたのEQの得点を算出してください。

強く同意する 少し同意する 少し同意しない 強く同意しない

1.他の誰かが会話に入りたいかどうか、簡単に見分けられる。
2.人間よりも動物を好む。
3.現在のトレンドやファッションについていこうとする。
4.相手が初見でなにかを理解しないとき、自分が簡単に理解できるようなものだったとしても、言い換えをして説明するのは難しいと思う。
5.よく夜に夢を見る。
6.他者への世話焼きを心から楽しむ。
7.自分自身の問題は他者と議論するよりも自分だけで解決しようとする。
8.社交的な場で何をするべきか理解することが難しいと思う。
9.午前中がいちばん調子がいい。
10.議論において要点を痛感させることの度が過ぎているとよく言われる。
11.友達とのミーティングに遅刻したとしても、それはそれほど私を悩まさない。
12.友情や間柄というものは難しすぎるので、これらのことを気にしない傾向がある。
13.どんな些細な事でも、法律は決して破らない。
14.何が失礼で何が礼儀正しいのかを判断するのは難しいとよく思う。
15.会話において、相手が考えているかもしれないことよりも、自分の考えに集中する傾向がある。
16.言葉のユーモアよりもイタズラを好む。
17.未来よりも今日を生きる方だ。
18.子供のころ、何がおこるかを見るためにミミズを千切って楽しんだ。
19.もし誰かがあることについて述べ、それが別のものを意味していたとき、それをすばやく拾い上げることができる。
20.道徳に関する断固とした意見を持っている方だ。
21.何かがなぜそれほどまでに人を動揺させるのかを理解することは難しい。
22.他者の視点に立つのは簡単だと思う。
23.良いマナーは親が彼らの子どもに教えることのできる最も重要なものだと思う。
24.衝動的になにかをすることを好む。
25.誰かがどのように感じるかについて予測するのは得意だ。
26.グループ内の誰かがきまりが悪くなったり、不快に感じたりしているのを素早く見つけられる。
27.もし私が他の誰かを怒らせるようなことを言ったとしても、それは自分の問題ではなく、彼らの問題だと思う。
28.ある人が「私の髪型似合ってる?」と聞いてきたとき、似合ってないと思ったら、私は正直に返答する。
29.誰かがなぜある意見に対して腹を立てなければならなかったのかを必ずしも理解することができない。
30.とても気まぐれな人だとよく言われる。
31.どのような社交の場で注目の的になってもそれを楽しむことができる。
32.人が泣いているのを見ても、そこまで動揺しない。
33.政治に関する議論は楽しい。
34.私は非常に率直だ。たとえそれが意図的でないにせよ、それを一部の人々は無礼とみなす。
35.「社交的な場は混乱する」と思ったりしない方だ。
36.「あなたは人がどのように感じるか、何を考えているかを理解するのが得意だね」と言われたことがある。
37.人と話すとき、自分のことよりもその人のあれこれを話題にする方だ。
38.痛そうな動物を見ることは私を動揺させる。
39.人の感情に影響されずに決断をすることができる。
40.その日する予定だったすべてをするまで、私はくつろぐことができない。
41.誰かが自分の言っていることに興味を持っているか、退屈しているかを簡単に見分けることができる。
42.ニュース番組で人々が苦しんでいる姿をみたとき、私は動揺してしまう。
43.友人たちは「あなたはすごく理解してくれるから」といつも彼らの問題を私に語ってくる。
44.たとえ他人が私に言わなかったとしても、自分がじゃまものかどうかを読み取ることができる。
45.よく新しい趣味を始めるが、すぐに飽きて何か他のものに移る。
46.「からかい過ぎだよ」と時々言われる。
47.大きなジェットコースターに乗るときは極端にナーバスになる。
48.「いつもなぜ?と言わないね、無関心な人だね」とよく言われる。
49.グループ内に馴染めない人がいたら、馴染めるよう努力するのは本人次第だと思う。
50.映画を見るとき、いつも感情に囚われずに見るようにしている。
51.日々の生活がとても体系づけられているのを好み、しなければいけない雑用のリストをよく作る。
52.相手の感情の起伏や直感力に合わせることができる。
53.リスクを取ることを好まない。
54.相手が何について話したいか、簡単にわかる。
55.相手が真の感情を隠しているかどうか見分けることができる。
56.決断の前には、いつも賛否両論を比較する。
57.社交的な場のルールを意識的に解き明かしたりしない。
58.人が何をするかについて予測するのは得意だ。
59.友人の問題に感情的に関わってしまう傾向がある。
60.たとえそれに同意しないにせよ、普段は他者の視点を評価することができる。

あなたのEQの得点の計算方法

強く同意するを2点、少し同意するを1点として計算してください:1, 6, 19, 22, 25, 26, 35, 36, 37, 38, 41, 42, 43, 44, 52, 54, 55, 57, 58, 59, 60

強く同意しないを2点、少し同意しないを1点として計算してください:4, 8, 10, 11, 12, 14, 15,18, 21, 27, 28, 29, 32, 34, 39, 46, 48, 49, 50

その他の全ての質問は計算しません。

あなたの得点の意味

平均点は、ほとんどの女性は約47点、ほとんどの男性は約42点です。アスペルガー症候群もしくは高機能自閉症の人の多くは約20点です。

0-32 = あなたの他者の感情の理解、適切に応答するための能力は平均以下です。
33-52 = あなたの他者の感情の理解、適切に応答するための能力は平均です。あなたは気配りと神経の細やかさをもって人を取り扱う方法を知っています。
53-63 = あなたのシステムを分析、探索するための能力は平均以上です。あなたは気配りと神経の細やかさをもって人を取り扱う方法を知っています。
64-80 = あなたのシステムを分析、探索するための能力は非常に高いです。あなたは気配りと神経の細やかさをもって人を取り扱う方法を知っています。

共感の捉え方からデザインする

共感化指数(EQ)は、システム化指数(SQ)とは対照的に、統計的に男性より女性の方が点数が高く、ASDを持つ方より男性の方が点数が高いという結果が出ています。この結果はASDの超男性脳仮説のひとつの根拠になっています。

この研究の結果から、ASD(自閉症スペクトラム)を持つ人々の抱える問題は、この共感化指数(EQ)の低さによる社会的インタラクション・社会的コミュニケーションの能力不足がひとつの原因となっていると考えることが出来ます。この能力の不足の原因を、システム化指数(SQ)を高めるような脳構造を持っているために、大きく性質の異なる共感化指数(EQ)の示す能力が相対的に低くなっている可能性を、サイモン・バロン=コーエンさんは指摘します。もちろん能力の個人差も大きいのですが、全体としてはこの傾向が統計上みられるということは、大変興味深いです。

共感化指数(EQ)が示すようなものの捉え方の違いからは、人間関係にまつわる問題に発展することが多いと容易に予想されます。状況によって他者の気持ちを操作してしまう可能性のある言葉や仕草を上手に使用できないことや、他者の感情を読み取ることが出来ないことは、感情への配慮を暗黙に期待された社会的状況ではマナー違反となり、個人を多数派に合致させる厳格さを持つような学生生活や就労の場において大きな問題となります。本人にとっても、できないこと、苦手なことにはピンと来ないものなので、問題の原因を他のものに誤って見出してしまったり、混乱したりしてしまいがちです。

共感の捉え方の違いがあることをASDの当事者や関係者が適切に認知し認識できれば、問題の解決に向けて大きく前進することが出来ます。また個人差によってスペクトル(連続)性をもって分布する共感化指数(EQ)やシステム化指数(SQ)は、能力のあるなしで人を隔てられることはできないことを示しています。個人の感覚に寄り添ってデザインをするセンサリーデザインの考え方は、個人の快適のためだけではなく、個人を取り巻く社会の快適のためにも必要とされています。

続けてシステム化指数(SQ)も調べられたい方は、こちらの記事をご覧ください。