センサリーデザインの実践:本国イギリスでは
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センサリーデザインとは? 第14回
TENTONTOメンバーのYutaniです。
このコーナーでは、私達TENTONTOが皆さまに一番お伝えしたいこと、センサリーデザインについてご紹介させて頂きます。前回から久しぶりの更新となります。
イギリスで生まれたセンサリーデザインの考え方について、TENTONTOwebおよびフリーペーパーTENTONTOで度々、情報をお届けしてきました。その概念はごく新しいもので、日本においては認知度がさほど高くないのが現状です。しかし本国イギリスでは既に、センサリーデザインは建築設計の専門家も興味を寄せるところとなっています。
今回は、イングランドのKelly Barkerさんが2014年に設立し、Derby(イングランド中部の都市)を拠点にさまざまなインテリア・デザインを手掛ける設計事務所・Just Living Interiorsのwebサイトより、Kellyさん執筆によるエッセイ「SENSORY DESIGN FOR AUTISM(自閉症者のためのセンサリー・デザイン)」を和訳でご紹介します。
自閉症者のためのセンサリー・デザイン − あなたの環境を理解しましょう
訳・Yutani
http://justlivinginteriors.co.uk/sensory-design-autism/
喜ばしいことに、最近、Derby(イングランド中部の都市)のSt. Martin’s Special Schoolを訪れる機会があり、そのヘッドマスターであるGary Dodds氏と、ASD(自閉症スペクトラム障害)をもつ子供たちや若い大人たちのための環境をデザインする際、感覚についての考慮がいかに重要かについて議論しました。
Dodds氏は私に学校を見せてくださいました。子供たちそれぞれのニーズに重きを置き、彼らを鼓舞するような環境を創るための尽力の度合いに、私は圧倒されました。
この機会に、同校内に置かれた専門家ユニット”ギャラクシー・スーツ”の議論に個人的興味をもちました。特に、ASDをもつ子供たちのために活動する学内ユニットです。学校において、子供たちの暮らしをより良くする上で、実環境が影響をもつのかどうか、その答えを求めることを、私は熱望していました。「環境というものは、感覚的に繊細な子供たちに大変大きな影響を及ぼし得る」というのがDodds氏の主張です。一部の子供たちにおけるこうした状態は、感覚処理障害(SPD)、感覚統合障害(SID)とも呼ばれます。ASDをもつ子供たちはこれらを経験する可能性が大きいとされ、彼らの生活や、複数の感覚へ圧倒的な影響を与えることがありえます。
彼らの感覚は、過度な発達(ハイパー)、もしくは未発達(ハイポ)の状態にあることが考えられます。これらは、不安感やストレス、時として身体の痛みを引き起こします。いずれの状態も、異なる環境に応じた子供たちの対処の仕方に影響を与えます。例としてDodds氏は、音がさまざまな形で子供たちに影響を与えることについて説明しました。吸音天井パネル、可能な限りのカーペットの設置、音の吸収のため、木製パネルを垂直に設置するといった設計では、音の影響が考慮されている、ということです。
このときのわれわれの議論では、自閉症とは信じられないほどに複雑な状態であり、スペクトラムを横断した膨大な数の特性を併せ持つ、ということが強調されていました。全ての子供たちは、それぞれ、異なる形で影響を受けています。
ゆえに、ASDをもつ子供たちのより良い生活のためには、いかなる環境においても、豊富な知識に基づくインテリア・デザインが最重要なのです。
今回ご紹介したエッセイを翻訳する中で、本国イギリスでは、子供たちのためのセンサリーデザインの重要性が専門家からも認知されるところとなっていることを改めて実感し、学校での環境設計といった形で実践の動きがあるという事実に驚かされました。
最初にご紹介した通り、日本においては、センサリーデザインという考え方の認知度そのものがさほど高くないのが現状であり、例えば実際の教育現場のような場面で実践が進むのは、まだまだ先のことではないかと思います。
webマガジン&フリーペーパーTENTONTOでは、たとえば感覚処理障害(SPD)といったASDに併発する症状や、それに合わせた環境設計の事例に関するご紹介を通して、日本の皆さまへセンサリーデザインについて詳しくお伝えしていければと考えております。
Yutani(ユタニ)
ライター&MC。学生。ゲーム好き。近年はプリパラに夢中。
趣味:映画鑑賞。最近、時間に余裕ができたので、もっと観たい。