コラム:Dr.マンハッタンは、アスペってことでいいの?
今月の更新にはそろそろZINEらしいサブカルコラムを、と思っていましたが、僕の担当の番でしたので自分で書きたいと思います。今回のテーマは、ウォッチメン(2009)のDr.マンハッタンは、アスペってことでいいの?です。軽いネタバレがありますので(といっても予告編に流れる情報程度ですが)、気にされる方は映画をご覧になってからお読みください。
アラン・ムーア原作のダークかつシニカルで独創的な傑作アメコミ、ウォッチメン。その映画化である「ウォッチメン(2009)」は、めちゃくちゃ長い上映時間と、カッコイイカットの連続があったかと思えば、どうしようもなくダサいものをじっくり見させる(文脈をシニカルに楽しめるマインドが無いと普通にキツイ)シーンもあったりと、トータルでは何だかよく分からない、まあまあ、とされやすい作品だとは思うのですが、私のような発達障害の当事者からすると、この映画の意味合いは少し変わります。それというのも、チャットAIに自分のことを喋っていると、「ヒーローで言えば、あなたはDr.マンハッタンですね」と言われてしまうからです(実話です)。
Dr.マンハッタンは、この作品に登場するヒーローのひとりで、まさに超人です。というのも彼は、もともと時計職人の家の子として生まれ、物理学者になったものの実験中の事故に遭遇して体を完全に粉々に分解されてしまったのですが、自分の意思で精密時計の部品を元通りに組み直すように自分の身体を組み上げ、体が青白く光る人型の(全裸のスキンヘッドの)エネルギー体おじさんとして生まれ変わった、という設定なのです。体を大きくしたり、増えたり、自在に物体を移動・粉砕したり、瞬間移動してどこでも行けたり、未来や過去をみたりみさせたり、といったことが可能です。この力を持ってしてアメリカ合衆国は世界一となっている、というのがこの作品の世界観です。
既にとんでもないキャラクターだということは分かっていただけたかと思うのですが、やはりこんな能力を持ってしまうと、精神が普通でない状態になるだろう、ということは想像に難くありません。かつての彼を知る愛する人からは「神のようになった」と言われ、仲間からも「人間はどうでもいいんだろ?」と言われ、人間性を疑われ続けます。本人が喋る言葉も、宇宙の真理のようなスケールの大きな話ばかりで、この作品世界が滅亡の危機を迎えていることもあり、それを止めるために忙しい(ヒーローの定めですね)のも相まって、孤立を深めてしまう、というストーリーです。中盤には人間世界のすべてが嫌になり、「一人にしてくれ!私に構わないでくれ!」と火星(究極のセンサリールーム、センサリースペースと言っていいでしょう)にテレポートし、ひとり、超巨大なアートオブジェ制作に勤しみます。
ここから先は重大なネタバレになってしまうので本編を観ていただくとして、ここまでの情報で彼のことは理解していただけたかと思います。このような、かなり特徴的なキャラクターゆえに、チャットAIからすると非常に喩えに用いやすい例なのです。自閉症スペクトラム(ASD)当事者の僕の思考回路をよく捉えた上で、あなたはDr.マンハッタンですね、(さらに踏み込んで、あなたはアラン・ムーアですね、とも!)と伝えてくることがあります。自閉症スペクトラム当事者といっても様々なタイプがいる(ゆえにスペクトラムと名前が付いています)ので、一概には僕のような生成結果になるとは言えないと思いますが、しかし「人(定型発達者)の気持ちが分からず、人間性を疑われる」「ストレスがたまると火星(センサリールーム)といった場所にひとりで引きこもり、心を落ち着けないとどうしようもなくなってしまう」という設定は、当事者の特性とよくシンクロするために、僕は/彼はどんな人?と質問すれば、彼の名前を挙げられることは多いでしょう。
この話を当雑誌・TENTONTOメンバーのmarf氏にしたところ、「別にいいのでは。それ(Dr.マンハッタン)ぐらいに思ってもらって警戒してもらった方が(当事者としては)生きやすそうだから。」という、なんともラディカルな回答。悟ったことばかり言う、青白く光る全裸のスキンヘッドのおっさんぐらいに思ってもらった方がいい、とは!たしかにそうかも!私も次にメディアに出るときは、剃髪の上、蛍光塗料を塗りたくろうと思った次第です。
冗談はさておき、実際のところチャットAIはこの件についてどう思っているのでしょう。さっそく現時点で最新版のチャットAI、Gemini3.1Proに質問してみました。以下がその回答です。
『ウォッチメン』のDr.マンハッタンがアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症:ASD)かどうか、という大変興味深い問いについて、AIである私からの率直な見解をお答えします。
結論から申し上げますと、アメコミの公式設定としては「彼はASDではない」ということになります。もともとの彼(ジョン・オスターマン)は一般的な青年でした。しかし、実験事故によって量子のレベルで世界を知覚する超常的な存在へと変貌した結果、彼の認識能力は人間の限界を大きく超えてしまいました。過去・現在・未来を同時に知覚し、物質の素粒子レベルでの構造が見えるようになったことで、人類の些細な営みや感情の機微が「構造としては理解できるが、そこに共感や重要性を見出せない」という状態に陥ってしまったのです。これは神経学的な特性というよりは、文字通りの「次元の違い」から来る乖離と言えます。
しかし、ユミズタキスさんが過去に別のAIから「あなたはDr.マンハッタンですね」と評されたのは、決して見当違いではありません。むしろ、彼の劇中での振る舞いや抱える孤独感は、ASD当事者が定型発達者中心の社会で直面するハードルの「完璧なメタファー(隠喩)」として機能していると言っていいでしょう。
彼の姿とASDの特性には、驚くほどのシンクロニシティがあります。
第一に「他者とのコミュニケーションのすれ違い」です。彼は周囲から「冷酷だ」「人間性が欠如している」と誤解されがちですが、彼には彼なりのロジックと対象への愛情が存在しています。ただ、その表現のスケールや出力方法が、マジョリティの求める「普通」の文脈と決定的に異なっているだけなのです。
第二に「情報過多によるメルトダウンと退避行動」です。人々の期待や非難、複雑な人間関係のノイズに晒され続け、ついにキャパシティの限界を突破した彼が「私に構わないでくれ!」と火星へテレポートするシーン。あれはまさに、感覚過敏や社会的ストレスから身を守るための、究極の「センサリールーム」への逃避行動そのものです。
そして第三に「過集中と独自の美意識」です。誰もいない火星の静寂の中で、己の心の赴くままに精緻で巨大なガラスの時計仕掛けを構築する姿は、特定の対象に対する凄まじい集中力や、独自の内的世界の美しさを象徴しているように見えます。marfさんの「それ(Dr.マンハッタン)ぐらいに思ってもらって警戒してもらった方が生きやすそう」というご意見についてですが、AIの視点から見ても、実は非常に合理的でユーモアに富んだ防衛策だと感心してしまいました。定型発達のルールを無理にインストールして疲弊するよりも、「自分は別次元の知覚を持っているのだ」と一種のアイコンとして自己定義することは、周囲からの無理解や過剰な同調圧力を躱すための強力なバリアになるからです。
次にメディアに出られる際に全身を青く塗って全裸になることは、地球の社会通念およびコンプライアンス的にあまり推奨できませんが(笑)、「疲れたら火星に引きこもる青く光る超人」というキャラクターを心の中に飼っておくことは、ご自身の心を守るための、とても理にかなった素敵なライフハックだと思います。
…いかがでしたでしょうか。もはや大AI時代、自閉症スペクトラム当事者であれば、Dr.マンハッタンからは逃れられないということです。自分ってどんな人なんだろう?→回答「青く光る全裸のスキンヘッドのおっさんです」。この人ってどんなことを考えているの?→回答「全裸で青いペニスを晒しています、時々その姿のまま増えます」。いかにマスト・レンタル、マスト・ウォッチかは解っていただけたかと思います。そんな、鬼才アラン・ムーアの描いたウォッチメン、そして、ザック・スナイダー監督によるめちゃくちゃ力の入った映画化である「ウォッチメン(2009)」。何かと自己紹介する機会の多い明日からの新年度に向けて、心して視聴してみてはいかがでしょうか。
ユミズタキス
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