コラム:『クロージング』を眺める

Youtubeでつい、ふいに探して見てしまう動画がある。日本のいろいろなテレビ局の「クロージング映像」だ。closing・閉じること。文字通り、放送終了間際のチャンネルで、その日の放送を「閉じる」ために流される幕引きの映像のことだ。

局の名称と周波数が示されつつ、その局が位置する地域の街並みの映像が流れ、最後にナレーターが視聴者に夜の挨拶をする、というのが、よくあるクロージング映像の構成である。午前3時頃、夏の時期なら、東の空がほんの微かに明るくなり始める頃合い。大体のチャンネルで、その日の番組放送が終わるのがこれ位の時間だ。もし夜更かし/早起きをして、この時間に起きていることがあったなら、テレビを点けてお好みのチャンネルに合わせてみていただきたい。どこかのチャンネルで、クロージング映像が見られるはずだ。

クロージング映像を見るようになったのは、確か小学校5年生くらいのときだ。土曜日の朝。二階の寝床を抜け出して、両親に悟られないように一階へ下り、居間のテレビを点けるのが、毎週の習慣になっていた時期がある。流れてくるクロージング映像を見つめた後、切り替わったカラーバーをしばらく眺めてみたり、買い物番組をやっているチャンネルに合わせてみたり。朝のニュース番組が始まるまで、テレビの前でそうしているのが好きだった。時折、母親に見つかって、夜中に起きていることをこっぴどく叱られたりもしたけど。

これを見ていると、僕は大変落ち着いた気持ちになってくる。多分、クロージング映像は、その日の放送の終了という、「区切り」をやんわりと、しかし明確に示すことで、僕の心にある種の「整理」をもたらしてくれているのだと思う。そわそわしているとき、何か不安なことがあるとき、クロージング映像を眺めると、心が静かになっていく気がする。一人暮らしを始め、Youtubeでいろいろとクロージング映像を眺めるのが趣味になってから、そんな風に考えるようになった。

特に好んで見るのが、地方に設置されているローカルTV局で流れるクロージング映像。その土地の観光名所や行事の実際の映像、また、それらを図案化したものが用いられていることが多く、映像を作った人たちの「創意工夫」「郷土への気持ち」が籠っている気がして、僕はとても好きだ。ちなみに僕の地元、群馬県・群馬テレビのクロージング映像は、群馬の山々(『上州三山』)や、ミズバショウの花が咲く湿原(尾瀬ヶ原)の映像が映り、そのバックには「群馬県の歌」という歌が流れるという、郷土への思いをとても強く感じさせるものとなっている。

今度の10月、北海道・札幌へ旅行することになった。いろいろと美味しいものを食べたり、有名なスポットを見に行ったりするのももちろん楽しみだけれど、このコラムを書いている内に、それと同じくらい、札幌のホテルでローカルなクロージング映像を見るのを楽しみにしている自分に気付いた。普段、そこまでテレビ番組に熱中している訳ではない僕だが、これもいわゆる「テレビっ子」の姿なのかもしれない。

 

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Yutani(ユタニ)
1992年生のライター&MC。エアコンのリモコン、発見しました。
旅行が好き。今日早速、札幌行きのLCCの航空券を予約した。
舌触りの良い食べ物が好き。今の時期なら、とろろ蕎麦。
twitterアカウントは、@kabafishing