シンプルなことは、繰り返し確かめられる
青いロクです。自閉症スペクトラム(以下ASD)の当事者を描いた「シンプル・シモン」(DVD特設サイト / 過去記事でのあらすじ紹介)の感想の続きです。
本編はハッピーエンドなのですが、映画をはじめて鑑賞した後、私はぼんやりして、よく理解できませんでした。
調子や環境にもよりますが、ASD当事者である私は、他人の気持ちを類推するのが苦手です。あいまいな気持ちは、頭の中に残りにくいですし、裏付けなしに信じられません。
それに対して、図形や、原因Aの結果Bとなった、というシンプル(簡潔)な意味の繋がりは、後で思い出して見直しやすいです。
映画の作者の意図するシンプルとどれほど合っているかはわかりませんが、今回は、感情や表情に納得しづらい私が、映画の展開にひとつの裏付けを得るまでを、順に説明します。
ハッピーエンドに一度で納得できる人には、下記は当たり前のことを難しく言い直しただけの文章に思われるかもしれません。
しかし、シンプルな、繰り返し確認しやすい原因と結果で、仮説と裏付けを組み立てたとき、どう見えるかという例となっています。
一部英語のダジャレを使わないと成り立たないのが、すっきりしませんが、英語圏のASD当事者、とくに言葉を使って考えるのが得意な方には多くの手がかりがあったようです。
- 本編のひとつの側面として、アメリカの宇宙開発、アポロ計画の要素が暗示される。
- 原題および英語版の副題は「宇宙には感情がない」
- 冒頭から、シモンは「新しい着地点を要求する」などと言う
- サムがヒューストンの管制官を演じる
- デートの際にジェニファーがスヌーピーの耳飾りをつけている
- シモンはスヌーピーのようなポーズでベンチに横たわり、月を見上げ、「宇宙にも感情があるのかもしれない」と考える
- スヌーピーとチャーリーブラウンは、月への着陸過程をリハーサルしたアポロ10号の着陸船と司令船のコールサイン
- つまり、月とはアポロ計画同様に、シモンの目的地・着地点。安心できる場所であり、宇宙にあるかもしれない感情のこと
- シモンはデートの演出をして、現実のアポロ10号と同様に、月までの道のりを確かめた。
- つまり、シモンは感情について理解しかけた。
- ジェニファーとサムは恋人同士になれない。
- 月まで行けるのはアポロ11号。
- ジェニファーのアイスクリームと、サムの煙草は、アポロ11号の計画段階のコールサインである、スノー・コーン(アイスクリーム)とヘイスタック(干し草)に相当している
- ジェニファーはシモンのもとに再度現れ、缶の蓋を開ける
- アポロ11号の司令船と着陸船は、正式にはコロンビア(ジュール・ベルヌの『月世界旅行』にでてくる大砲・アメリカの擬人化)とイーグルと名付けられた。
- コロンビアについて
- コロンビアの由来は船乗りコロンブスであり、彼はイタリアのジェノヴァ出身。
- (強引だが)ジェニファーは、司令船コロンビア
- イーグルについて
- シモンはいくつか、鳥の雛のような要素をもっている。
- 殻のようなイヤーマフ
- 顔面の不随意運動で鳥のように口をとがらせる。
- 即時性エコラリア(Parrotting; 鸚鵡返し)を抑えているようにみえる
- ドラム缶のhatchを開けろとサムは指示するが、他動詞のhatchには、雛が孵るのを助けるという意味があり、ラストシーンで、シモンが自分で缶から顔を出した後に、ジェニファーが缶を開けるまでのやりとりに相当する
- シモンはイーグル(鷲)だという確証はないが、鳥、雛、またはその卵らしい。
- シモンはいくつか、鳥の雛のような要素をもっている。
- ジェニファーとシモンが、コロンビアとイーグルに相当するのなら、月まで行ける。つまり結ばれるし、感情について理解できるだろう。
- だがシモンはまだ卵から生まれたばかりの雛だから、どうなるのかはわからない。
- つまりハッピーエンドと言ってさしつかえない
裏付けが取れたとき、私は僅かな安心を感じました。
映画をどうしても理解したいため、日本語・英語版のwikipedia等を漁り続けて、裏付けを必死に探したのですが、この記事にあるような雑学は、それぞれ個別にはアメリカの一般的な教養といってよいものでしょう。なので、あちらで数人で映画を気楽に鑑賞し、感想を共有すれば、簡単にたどり着く可能性が十分にあるものと思われます。
こういう「あのシーンは実は…」は、物語に興味を引き出すためのフレーバー(香りづけ)にすぎませんが、アメリカのASD当事者が鑑賞して、周りの人に特性を説明するために引用する場合には、ことわざや雑学を散りばめられたシーンの数々が助けになるかもしれません。
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