コラム:冬好きの春バテ

先日は4月にもなって雪が降った。たぶん多くの人は戸惑ったと思うけど、私は寒いことをひそかに喜んでいた。というのも、私は春が来るのがあまり待ち遠しくないタイプの人間だから。

桜の花が咲き始めるこの時期、心なしか街は華やぎ、道行く人々も新生活が始まって嬉しそうな表情になる気がする。まあ最近は花粉症人口が増加の一途を辿っているらしいから、浮かれているひとも意外と少ないのかもしれない。でもとりあえず冬よりは、街も人々も活発に動き出している。

私は春が来ると心と体の調子が不安定になる。理由は大きく2つある。ひとつは気温の変化が大きいから。冬の間は常時縮こまっていた体が、気温が上がって弛緩する。日光もぽかぽかと風を暖めていくので、日中過ごしやすくなってしまう。今まで寒かった駅までの道のりでも、一生懸命歩かなくていいから暇だな、なんて思ってしまう。服装も少し軽くなったりして、空気に急に甘やかされたみたいで、心に隙ができて落ち着かなくなる。

もうひとつは人々が活動的になっているのを感じるから。日本における生活の仕組み上、春は別れと始まりの季節。私は物事の変化に柔軟に反応できないため、自分のペースを守ろうとして必要以上に意固地になる。もともと少ない体力を無駄に使って擦りきれてしまう。

この一連のストレスによる疲れを、自分の中では夏バテならぬ春バテと呼んでいる。そんな私にとっては、冬がいちばん好ましい。色々なことが安定して、服装も重く、充分に守れている感じがするから。

何不自由なく育った人間のことを揶揄して、温室育ちの人間、なんて表現することがある。私に関しては、気持ちも体調も小さなことに影響されてしまうので、一定の自分自身を保持するために、例えば冷蔵庫のような、直射日光の当たらない涼しくて風通しの良いところへ置いておいてほしくなる。私は冷蔵庫の野菜室人間なのだろう。日本のような四季の変化の豊かな国に住むのは向いていないなあと、春になるといつも思う。

marf