誰もが使いやすいデザインのために、私達ができること。
画像出典元:西日本新聞 https://www.nishinippon.co.jp/
先日再開業した、熊本の大規模バスターミナル。床面の点字ブロックを赤・青・緑と塗り分け、行先ごとに案内している。このデザインに地元の盲学校PTAが、弱視者に判別しやすいよう点字ブロックを一般的な黄色にするよう批判。運営側は、地元の障害者や家族の集まりとの話し合いを重ねて決まったものなので、即座に点字ブロックを黄色に変更するつもりはない、と回答。
ライターの青いロクです。年が明けてしまいましたが、昨年末にこのようなニュースがありました。この一件について、個人的に思ったことを書いてみたいと思います。
なぜ?色とりどりの点字ブロック 熊本のバスターミナル( 2019/12/11 西日本新聞 )
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/567295/
熊本桜町バスターミナル – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/熊本桜町バスターミナル
地元障害者・家族の集まりの意見をまとめた施設に、他の障害関係者団体からクレームがつく事態に
2019年12月のニュースですが、9月に再開業した「熊本桜町バスターミナル」の視覚障害者誘導用ブロック(点字ブロック)の色が一般的な黄色でないことが報じられていました。西日本新聞の記事及びWikipediaを参考に、概要を説明します。
このバスターミナルは以前から同じ場所にあり、旧施設は最後に1994年に改装され、2012年に再開発計画が発表され、2015年ごろから今回の工事が始まりました。障害者への具体的な配慮については、2017年ごろから、視覚や聴覚の障害、身体障害、知的障害、発達障害などの地元の障害者や家族会の集まりと意見交換を進めてきたとのことです。
29もの乗り場を備え、日本最大級規模ともされるこのバスターミナルは、空港・駅、県庁方面行きなど、バスの行先の種類ごとに、点字ブロックや、壁面の案内パネルの色分けで案内しています。この施設の点字ブロックは、点字ブロックとしては一般的な黄色ではない赤・緑・青色です。
この色分けは、知的障害・発達障害児者を案内する際に理解してもらいやすい場合があり、また、子供や高齢者も分かりやすいことから、話し合いで決まったそうです。しかし盲学校PTAから、弱視の方が点字ブロックを判別し辛いため一般的な黄色にしてほしいという訴えがあり、今回のニュースになりました。
商業施設やバスターミナルを運営する九州産業交通ホールディングスは、障害者団体にチェックしてもらっていると説明し、そのためすぐに点字ブロックの色を変えるつもりはないようです。今後も利用者の意見を反映させ、成長させていきたいとしています。
運営者や設計者に、より自主性をもって誰もが使いやすいデザインに近づける取り組みを望みたい
普段から発達障害というキーワードで情報収集をしていますが、その際に引っかかったこのニュースを読んで、誰もが使いやすいデザインを作り上げることの難しさを改めて思いました。
誰もが使いやすいを目指すデザインを、絶えず変化する現実と限られた時間と予算で叶えるのは、たいへんな分析力や知性や幸運が求められることと思います。知見を蓄積することで少しずつ歩みを進めていくものであり、そういう前提のもとで、こういったデザインは評価されるべきです。
しかしながら記事を読む限りでは、想定される利用者へのヒアリングが依然として充分ではないままに施工し、施工後に意見やクレームを受けて対応する、という姿勢に見える部分もありました。
記事を読んでの私見ですが、当事者のひとりとして、施設の運営者は地元の当事者・家族会だけに頼らず、よりユニバーサルなデザインに近づけられるよう、自主性を持ち取り組んでほしいと感じました。3つの理由をあげて説明します。
1つ目の理由は、このバスターミナルは地元住民だけでなく、県外からの訪問者や、ほど近い熊本城を目指す外国人観光客にとっても利用しやすい施設である必要があるためです。
旧称「熊本交通センター」から「熊本桜町バスターミナル」への名称変更も、バス施設であることが外国人に分かりづらいための改称とのこと。それらの訪問者にも、当然ながら障害者やその家族は多数います。
2つ目の理由は、ある障害について、地元の当事者団体・家族会が話し合いに参加したとしても、必ずしも一般に想定されうる当事者たちを代表することはできないと考えられることです。
視覚障害者誘導用ブロックの色について、当初からの話し合いに参加した視覚障害者団体は、黄色がよいが他の色でも問題ないと判断したようです。
明るさの違い(輝度比)が充分あれば、弱視の方が見やすくなり、その代表的な例として黄色が挙げられます。今回のケースでは床面が暗い色なので、黄色にこだわらずとも目立ちそうには感じました。ただし、赤色のブロックとの輝度比は少なめに見えます。
上記のような点で、色分けには正当性は実際あったものと思いますが、地元利用者としてまず意見交換のテーブルについてもらえるよう案内したようです。ASD(自閉症スペクトラム)当事者個人としては、回りくどい話し合いなどよりも直接の説明がよい気もしましたが、運営者なりの判断かと思われます。
3つ目の理由は、当事者団体として組織されてない等で発言の機会が持てず、一般市民の感覚では忘れ去られてしまう弱者も多数いることです。
色盲・色弱のある方(男性で20人に1人、女性で500人に1人)にとっては、色分けに重点を置いたこの案内方式は不便に感じるかもしれません。床面以外の様子がよくわかりませんが、例えば仕上げの種類やパターン分けに変化をつけることもできたのではないでしょうか。
私たちを含め、当事者はそれぞれがなんとか社会生活を送るため、その人たちなりに情報収集・情報交換し、こうなればいいなと思い描くビジョンもあります。しかしそれをそのまま、不特定多数の関わる空間に当てはめたとしても、より多くの人が快適になるとは限りません。
運営者や設計者には、地元当事者や家族会の意見、またはクレームへの対応といった小規模な取り組みでなく、既にある技術的知見を駆使して、その場にいない少数派の社会的弱者への配慮も含む、より誰もが使いやすいデザインを自ら目指してほしい。そしてクレームがついた際にも、学術的なデータや、自らの意図を明快に説明してほしいと、私個人は感じました。
その自主性という原動力があればこそ、当事者や家族・関係者それぞれからしか聞き出せない、不便さと解決するためのアイデアの源を、より活かせるのではないでしょうか。
2015年に始まった工事と同時進行で話し合いを進め、熊本地震による仕様変更を含め、バスターミナルを完成させる労力は大きなものだとは思います。
私は本件の運営者や設計・施工に関わった人々が、ユニバーサルデザインを目指すことに消極的だったとは思っていません。待機場所と車道を分けるホームドアのような、多くの工事費用がかかるものの、事故防止や騒音低減に大きな効果がある部分はしっかり実現できています。案内表示や多目的トイレの設置といった、多くの人にとって便利な機能も数多く実現しているとのことです。
当事者にできること―「便利と感じた声」も届けよう
ホームドアによりバスの騒音が減ったことで、音で判断する視覚障害者の方々が助かっているという点は、我々発達障害当事者に多い聴覚過敏をもつ人、音を聞き分けるのが困難な特性をもつ人にもやさしい環境です。
施設を訪れて快適を感じたなら、その旨をアンケート用紙等で伝えたいところです。心温まる応援のメッセージは、関わった方々の勇気づけになりますし、誰もが使いやすいデザインの推進をより重要に感じてもらえるようになるきっかけになると思います。
青いロク(本記事は、代表ユミズのアドバイスのもと執筆しました。)