WIRED.jpのニューロダイバーシティ動画に反響多数
センサリーデザイン最前線 第73回
TENTONTOのmarfです。WIRED.jpのYouTubeより、アメリカ・ドレクセル大学准教授のマシュー・ラーナー氏が、ニューロダイバーシティについて視聴者から寄せられた質問に回答する動画が今月公開され、話題になりました。感覚過敏についてを含め、網羅的に発達障害の情報を伝える内容になっています。内容を引用しつつTENTONTOでもご紹介します。
この動画は、専門家が一般から募集した質問に答えていくという形式のシリーズで、今回は広く発達障害に関する質問に簡潔に答えていく形式です。いくつか質問と回答を取り上げてみます。
“ニューロダイバージェント”とは?
これは診断名ではないので”精神疾患の診断・統計マニュアル”つまりDSMにも記載はなく関係者から生まれた言葉です
世の中を認識しながら関わっていくことや その中で個々が生きていくための方法の違い
脳や神経すなわち “ニューロ” の違いを表します
世の中には社会生活を営む上で他人とつながり協調するのが困難だという規範とは違う特性を持つ人たちが存在します
神経学的な少数派ということです“自閉症におけるマスキングとは?なぜ起こるのですか?”
(中略)例えば多くの自閉症の人は今の私のようなアイコンタクトが非常に苦手です
でもマスキングやカモフラージュをする人たちは、あえて目を合わせようとします
これらの行動は神経学的な多数派の世の中に適応するためで本人に負担がかかっていることが最近の研究で分かりました
認知資源 脳の資源や機能、感情をめいっぱい使って社会に適応しようとする
でも自閉症に関わる人たちは負担は徐々に大きくなると言います
脳や心の激しい消耗が不安や鬱の発症に関係していると近年証明されました
だから自閉症の人たちがあまりマスキングせずに自分らしく過ごせる世の中を目指したいものです“自閉症のしるしとは?”
(中略)自閉スペクトラム症の人の中には触感やニオイ、味、音や光に対して敏感な人がおり、そういった感覚過敏のせいで環境に適応しづらいのです
ある場所では耳をふさぐ、または耳栓が必要です
この部屋などは明るすぎて圧倒されそうです“ハイパーフォーカスがADHDの特性だとは思えません”
ADHDの人たちは、注意力が持続しない、そして多動、ワーキングメモリーの問題が挙げられ、”集中”が苦手です
でもハイパーフォーカス、つまり”過集中”も特徴の1つです
などなど、他にも様々な質問がありますが、よくまとまっていて見やすいと思います。
一通り見て思ったのは、この10年で驚くほどASD・ADHD、そして感覚過敏・鈍麻(センサリー)に関する情報を得やすくなり、この話題について口にされる機会が増えたということです。WIREDの日本語版であるこの動画もすでに3.1万回再生(英語版は119万回再生)され、多くの人の目に触れ、視聴されています。
TENTONTOの活動が始まった2014年頃は、日本社会で普通に暮らす際の視界には、発達障害に関する専門的でありながら一般層向けの情報はほとんど入らなかった記憶があります。
“自閉症についての作り話でムカついたのは?”
作り話は山ほどありますが、最も腹立たしかったのは、自閉症の人は”共感しない”、”人の気持ちがわからない”と聞いた時です
よく言われる俗説ですよね
自閉症の人々は誰とも関わらず独自の世界を持ち他人に無関心なように見えるからでしょう
自閉症は”Autism”で元はギリシャ語です
語源の”Autos”は”自己”
すなわち自閉症の人たちは自己中心的だから他人のことは考えないという暗黙の了解がある
でも実際それは間違いだと自閉症の人たちは主張しています
気持ちを伝えるのは大変なことですが他の人と同じように共感はできると言います
言語能力の低い人を見ていてもやはり作り話だと確信します
自閉症の子供も大人も時には非常に深く他人に共感することがあるのです
あまりに深すぎて相手の気持ちに圧倒され自分の意思を伝える妨げになるほどです
コメント欄には日本語のコメントが多く寄せられています。特にこの、最後の質問と回答に対しての反応が評価の高いコメントとされていたのが印象的でした。
動画の中で、机の上にある本の中に『Neuro Tribes』がありました。この本についてのWIREDの記事も、TENTONTOで翻訳して取り上げたことがあります。
この記事を書いたのが2015年の年末のこと。およそ10年経った今、このように広く一般の人に向けて、専門家の方が冷静かつ温かみのあるトークでASD・ADHDについて分かりやすく話している動画が公開されたことが感慨深いです。
marf
