『League of Legends』自閉症スペクトラム者モチーフキャラクター「オーロラ」について、当事者ゲーマーとして魅力を語ってみる
近年、日本での人気の高まりが著しい大人気eスポーツゲーム『League of Legends』。昨年の2024年と比較的最近に追加されたフレヨルド(ゲーム内世界の過酷な氷雪地帯)の魔女ウサギ「オーロラ」。このキャラクターが自閉症スペクトラム者がモチーフになっているという情報を入手しましたので、自閉症スペクトラムの当事者かつゲーマーでもある私が、調べたり使ったりしてみて感じたことを今年最後の記事にしてみたいと思います。
まず「オーロラ」の姿をみると、カラーパレットからアナと雪の女王のエルサのような、氷雪属性の魔法使いのようなデザインがされていることが分かります(クリオネのような精霊や、ルーン文字も見られます)。ゲーム内世界であるフレヨルドのような寒冷地は人の気配の少ない地域であり、屋内にいる時間が長くなる点も孤独も苦にならない自閉症スペクトラム者が、間違いなくのびのびとできる環境のひとつだと思います。『League of Legends』は使用できるキャラクターが多いゲームとして有名ですが(記事執筆段階で172体)、フレヨルドというのはゲーム内の世界としても非常に発達障害フレンドリーな傾向を持つキャラクターが多いと僕は思っています(なお、もうひとつの当事者向け地域としては、スチームパンクな地下都市地区である「ゾウン」とその地域のキャラが挙げられると思います、こちらも汚染の危険度や治安の悪さから人の気配の少ない地域です)。つまり人里離れた出身地・居住地という点で、最初に「オーロラ」はASD傾向を感じさせてくれます。
そして頭についた魔女の帽子と大きなウサギ耳。ウサギ(狩られる側の獣)の亜人を敵と闘うゲームに登場させるのは挑戦的な試みです。これは非常識的なキャラクターデザインを好みやすい、ASD当事者向きと言えそうです。そしてウサギであることで、当事者特有の感覚過敏があることも大きな耳や台詞(「この音に、この臭い…苦手だわ」)で示されていますし、「魔法の力で精霊界(安全な領域)にぴょんと逃げ込むことができる能力」というのは、センサリーデザイン(発達障害者が感覚に圧倒されたときに落ち着くための場所やアイテムのデザインのこと。「センサリールーム」の公共施設への施工が有名で、今年の大阪万博でも各パビリオンでテーマのひとつになっていました)の観点も、ゲームに反映されています。
面白いのが、開発エピソードにあった「オーロラの爪先歩き」。ウサギの脚の形をしている亜人であることと、当事者が爪先歩きをよくすることとの両方をイメージしているとのことで、確かに私も家の中で爪先歩きをよくする(足の親指一本で歩くこともできる)ので、こんなところまで調査してキャラクターデザインに反映したのかと、その過剰な熱意(キャラクターへの思い入れ)のエピソードが読んでいて楽しくなりました。
次に、クリオネのような姿の(もののけ姫の「コダマ」のような)精霊たちがみえて、敵の中にいる彼らを(祓いながら)使って闘うという設定については、定型者から「孤独でかわいそう」にみえる発達障害者を、「いっぱい精霊たちがみえているので寂しくない、と本人は思っているのだな」と伝える要素にはなっていると思います。ただ、これについては個人的にはさすがに情報過多というか、そもそも属性が多いキャラクターなのでさらに追加で盛られすぎている、画面上も情報が多くなって散らかりすぎて感じてしまうようには思ってしまいました(マップのあちこちに精霊がみえるので他のキャラよりも気の散る視覚情報が多くなる)。もちろん、殺伐とした雰囲気に陥りやすい対人アクションゲームで癒やしの見た目の精霊たちと闘えるというのは、センサリーフレンドリー(当事者の過敏な感覚への配慮)と言えばそうである面もあるとは思います。

衣装デザイン面では、私個人としては開発エピソードにあった開発中の上記の画像の右上のデザインが当事者好みでかなりかわいいかなとは思ったのですが(肩に羽織る服は落ち着きますし、口元が隠れているのも表情管理に気を使わなくて済むので楽)、決定稿のデザインのように肩が露出していたり口元がみえていたりといったデザインの方が、一般プレイヤーとしては魅力的という判断だったのでしょう。強力な性能を持った新キャラクターを地味すぎる格好で実装するというのは、『League of Legends』という大規模で派手なeスポーツイベントが開催されるゲームでは無視できない問題にはなってしまいそうです。デザイナーのこだわりとして、タートルネックの部分で「首元を落ち着く感じにしたい」と本人が思っていそうなデザインをなんとか残しているという印象です。
キャラクターの台詞については、無口な牡羊の鍛冶神であるオーンと友達になり、武器である魔法の杖を作ってもらうというエピソード(「あなたがいて安心したわ、ラムハーグ(オーン)。他のみんなは騒がしいったらありゃしない」)や、ASD & ADHD的な独特な観点での感想(「本もある。杖もちゃんとある。素材もあるし、忘れ物はしてないはず…よし、行くよ」「人間なんて、腱と肉でくっついた骨の集まりでしかないの。ふう、せめて来世では精霊になりたいわね」)、豊富な味方や敵キャラクターとの掛け合いボイス(「今日の分の社交性、使い切っちゃった」「他の人と過ごすのって疲れる。冷たく当たっても気にしないでね」)から、開発エピソードにもある通り自閉症スペクトラムらしさを「モダンな文脈での魔女っぽさ」に落とし込もうという努力が垣間見えるものとなっています。
開発エピソードにもあったデザインが難航した経緯については、やはり、ウサギという非捕食者モチーフのキャラ(だがモブやマスコットではなくヒーローである)のために、ヒーローらしい強さを持たせなければならないのに強くしすぎるとウサギらしくなくなったりサディズムやマキャベリズムの印象が強くなりヴィラン的になったりする、という、キャラクターデザイン論の観点でも成立が非常に難しい範囲のため、デザインが難航したり没になってアイデアとして長年眠っていたことが開発エピソードからも伺えます。このあたりも発達障害当事者の社会からみた扱いづらさに通じるというか、社会的な誠実さのための記号化がしづらい複雑さを持っている性質と言えそうです。
そして、肝心のキャラクター性能について。プレイしてみて私自身が思ったこととしては、やはり自閉症スペクトラム者というとゲーム内の5つのポジション(『League of Legends』はサッカーのように各ポジションを担当して5対5の10人で遊ぶゲームです)のうちの「トップ(陸の孤島とされる場所を担当するポジションで自分と相手との1対1の闘いのみに集中できる時間が長い)」か「ジャングル(マップ内に広がるジャングルを自分のペースで回りながら作戦を立てることに集中できる)」がストレスが無く遊べるポジションとは思うので、これらではなく「ミッド(マップの中央で一番重要な場所を守りながら味方全員のフォローも行う、マルチタスクなリーダーポジション)」専門のキャラクターであるというのが大きな障壁にはなりそうな気はしました。
実際にオーロラ自身も「処理することが多すぎる…少し休憩してくるわ」「どうしてずっと戦えるの?もうヘトヘト…」「この世界は目が疲れるわ…ちょっと、気分転換しないと」と言いながら闘っているので、ちょっとかわいそうになってしまいます。『League of Legends』では魔法使いは能力的にミッドを担当することになりやすい、という常識からは(ぴょんと)逸脱させてもらえなかったのだなぁ、と思ってはしまいます。
また、チームゲームのポジションのことだけではなく、ゲーム内の能力としてもプロゲーマーが大会で使用するような高難度ゆえに高性能な玄人向けキャラのため、余計に忙しい印象は感じます(既に167体の使用可能キャラクターがいる状態で出された新キャラクターなので、性能面で自閉症スペクトラム者がリラックスできそうな性能を持つキャラクターは出尽くしてしまっている、という事情もありそうです)。
もちろん、プレイヤー目線でみればこのような観点になりますが、eスポーツ観戦者視点でみれば、大会でチームのリーダーかつエースとして自閉症スペクトラム者モチーフのキャラが活躍する姿を観られるわけなので、それは当事者の少年少女たちにとっての喜びになることもあるでしょうし、定型発達者のプレイヤー・観戦者にとっての「このような特徴の人たちがいるのだ」という社会的な認知の向上にも繋がることでしょう。
さて、長々と思いつくままに記述をしてみましたが、「オーロラ」自身も友人のヘラジカの半神「ヘストリル」や精霊たちという友達のために、自分の特性を活かしながら出来ることをしたいと思って旅をして、研究しては書いてまとめて、みんなが興味を持たない話を聞いてもらいたがったりするキャラクターですし、私が今、年の暮れに書いているこの記事も「オーロラ」らしい、自閉症スペクトラムらしい記事と思います。
発達障害の社会的認知が広がり、またチャットAIの高性能化に伴い人間自身の認知構造も大きく変化を迎えようとしている昨今。ゲーム体験であったり、その体験を生み出すゲームデザインであったり、そういったものにセンサリーデザインの観点が織り込まれてきつつある世界的な流れがあるということは、自閉症スペクトラム当事者が一部でも完全でも受容されうるコミュニティの創造に繋がると思います。ですので、私も引き続きこうしてWeb Zineの執筆を通じて、「オーロラ」のように、しかし無理せず、軽やかに伝えていければと思います。
ユミズ タキス
