67回解雇されたASD、コメディアンになる
(土) Y = ユース(青春)
熱い思いを胸に活動する、テントントさんのハートフルなチャレンジ。
画像出典元:BBC 様 http://www.bbc.com/
テントントさんがやってみたコト 第6回
ASD & ADHD MAGAZINE TENTONTO 代表のユミズ タキスです。このコーナーでは、多くの人と感覚の違いを持って暮らす人=テントントさんのうち、感覚の違いを多くの人へ伝える活動をされている方々をご紹介していきます。
このコーナーの第1回、第5回に引き続き、今回もテントントさんのコメディアンをご紹介します。アスペルガー症候群を持つロバート・ホワイトさんは、イギリスのエディンバラフリンジショーに出演するスタンダップコメディアンです。7年間で67の仕事を解雇され、刑務所に入ったこともある彼はコメディアンの道を見出しました。独特なコメディスタイルを持ち、アスペだからこその表現や工夫をしています。
英・BBCは2014年8月、そんな彼にインタビューを行っています。彼は一体どんな人物なのでしょうか?
Asperger’s makes stand-up easier than office work: http://www.bbc.com/news/blogs-ouch-28564818
アスペはオフィスワーカーよりコメディアン向き
アスペルガー症候群のひとりの男は、様々なオフィスワークよりプロスタンダップコメディアンになる道を選んだ。なぜだろうか?
ロバート・ホワイトは7年間で67の仕事をやってみたが、彼が日々、言葉を非常に字面通りに解釈するせいで解雇され続けた。生まれつきのアスペルガー症候群なのだ。
「前働いていたあるコールセンターで上司が、全ての仕事のルールのリストを持ってた。」彼は言う。「それには僕がギャレス・ゲイツのお面をつけてはいけないとは特に書いてなかった。だから僕は雑誌からひとつそれを作って3時間ほどつけてたよ。」それで彼は解雇を告げられた。
*ギャレス・ゲイツ…イギリスのシンガーソングライター
今、ホワイト氏はスタンダップコメディアンとして以前より幸せに生活していて、一般的なオフィスでの状況よりもだいぶ理解するのが簡単だとも言う。彼が言うには、「ステージでは、ジョークを言うという文脈の中でジョークが言える。同じことを仕事で言うと、社会的な状況の誤解と不適当に見えるものとして取られてしまう。」
売り文句として、ホワイト氏は自身をアスペ、ゲイ、失語症、クロスラテラル、水かき足、前科者、ミュージカルコメディアンと言う。「クロスラテラル」とは、通常に反して、利き目と利き手が反対の状態の人のことを意味する。
ホワイト氏の最近のエディンバラフリンジショーでの公演、『ギャグと重犯罪にまつわる奇妙な事件』は、アスペルガーのティーンを描いた人気小説のタイトルをもじったもので、彼が3ヶ月間刑務所に入れられた際の出来事もネタに取り入れている。
*英作家Mark Haddonの小説、「The Curious Incident of the Dog in the Night-Time」
夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハリネズミの本箱) マーク ハッドン http://www.amazon.co.jp/dp/4152500093/ref=cm_sw_r_tw_dp_Ponqvb1CX3GFR
彼が獄中でどのように自身を見出したかのエピソードは、個性的かつ複雑だ。刑務所暮らしが終わったとき、彼は自分の行動はまともなものではなかったと認めた。「普通の人はよっぱらってるんじゃないかと思われるだろうけど、僕はアスペルガーを持っているから、警察が誤解するようなジョークをしちゃったんだ…」
彼のフリンジショーでのネタバレを恐れて詳細は語らなかったが、こうは言った、「刑務所は多くの人のためより僕のために簡単だと思った。なぜなら僕は僕の頭にいる刑務所内で活発に活動する人物の誰かだから。」
再拘留の際、ホワイト氏は鬱になり、自分を癒やすために頭の中で落ち着いた曲を流した。「書くのにぴったりな用紙とペンがなかったら、僕は歯磨き粉を新聞の上にぶちまけて、指でひっかいてメモを書いたよ。」と彼は言う。この一件は彼のアスペルガーの診断の根拠となった。
ホワイト氏のコメディはエネルギッシュで、気まぐれにオーディエンスの参加があり、キーボードの伴奏つきの即興の歌があり、言葉遊びの下らないジョークがある。たとえばこんなもの。「ボクの今カレ、普通じゃないのよ。だって、他人が贈ってくれたパートナーなんて聞いたことある?」
*present…「現在の(形)」、「贈り物(名)」
ショーの前には、ステージ上で起こり得るアスペルガー症候群の自然な反応を打ち消すように準備する。
「どうすべきかを思い出せるように手に書いてるんだ。社会的なインタラクションの側面におけるプログラムをね。」とホワイト氏は言う。「ある指には『さっさとやれ、やり続けろ』と書いてある。何か困難なことが起こったとき、すぐにパニックになったり拒絶したりしてしまうからね。」
「別の指には『ブーイング』って書いてる。これはオーディエンスのブーイングはネガティブなこととは限らないことを思い出させるため。彼らは実はパントマイムをしていて、それを楽しんでいるだけかもしれないだろ。」
文章を読む限りでは、ロバート・ホワイトさんは自閉症スペクトラム(ASD)と注意欠陥多動性(ADHD)のオーバーラップ型のアスペルガー(AS)のようです。ASDのうち3人に2人は、ADHDのオーバーラップが見られるとされています。私もそのひとりです。
歯磨き粉を使ってメモを取りたくなるところは、ASD由来の目的に対する直線的な思考や着眼点、それを一足飛びに実行したくなるADHD由来の多動性とがマッチしたとき、よくこのような事が起きます。うっかり忘れやすいから手にメモを書くところも、ADHD由来の注意欠陥性とASD由来の局地的な合理性と考えられます。
ASDの理屈っぽさと、ADHDの試してみたくなるところが重なって、良くも悪くも社会に対して実験したくなるという反抗挑戦性(ODD)へ繋がっているのだと、同じような思考回路を持つ私は分析します。その反抗挑戦性も、ウケを狙って皆を喜ばせたいという純粋な気持ちから生じていて、そんな彼が見出したのが、コメディアンの道だったのではないでしょうか。
それにしても、コメディアンに対する好意的なブーイングとパントマイムを繋げる、ホワイトさんの発想力ある言葉には目から鱗でした。アスペもアスペでない人の考え方をアスペなりに捉えられるという、典型例だと思います。