聴覚過敏者向けのスタイリッシュなイヤーマフ JVC EP-EM70 を調査・比較

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画像出典元:株式会社JVCケンウッド https://www3.jvckenwood.com/

センサリーデザイン最前線 第54回

ライターの青いロクです。日本の音響機器メーカーJVCケンウッドが、自社初めてとなるイヤーマフ EP-EM70を2019年10月上旬に発売しました。このスタイリッシュな製品、すでに量販店や通販サイトで販売が始まっていまして、今回はこの製品についてご紹介してみたいと思います。

JVC EP-EM70は、既存の、飛行機の整備場や工場といった場面で使われることを主に想定したイヤーマフのイメージを一新する、ヘッドホンライクなデザインを採用したものだそうです。いくつかの家電量販店にはイヤーマフ売り場もあるので、試してから買える貴重な製品となりうると思い、詳しく調べたくなりました。

また下記ニュースリリースの文章が、さらに興味を引きました。

高い遮音性能により、日常のさまざまなシーンで不快音や騒音から耳を守るイヤーマフ「EP-EM70」を発売 ~イヤーマフのイメージを一新する、ヘッドホンライクなデザインを採用~

近年、一般的には不快ではない音を不快に感じたり、音が聞こえすぎるために日常生活に支障があるという方々や、周囲の騒音を気にせずに勉強や仕事に集中したい、落ち着いて過ごしたいと考える方々などから、充電が不要で装着するだけで周囲の不快音や騒音を低減する防音保護具(イヤーマフ)へのニーズが高まっています。

(中略)

当社は本機を、聴覚過敏により困難を抱える方々の生活の質向上や、日常の周囲音に悩む方々のストレス軽減をサポートする商品として提案します。

と、このようにJVC EP-EM70は、聴覚過敏の当事者向けであることを明らかにしている製品になります。

あくまで一般向けの製品として販売され、感覚過敏の当事者にも愛用される製品というのは、世の中にいくらかあります。イヤーマフの多くも、工場のような現場が第一に想定する環境です。とはいえ言ってしまえば出来合いのものを仕方なく使う、そんな境遇から脱せられるような気がしてささやかな自尊心をくすぐられてしまったせいか、この意欲的な製品について、ぜひ詳しく知りたいと思ったのでした。

 
 

【今回比較するイヤーマフ】

さて、自分はすでに職場と自宅で1台ずつイヤーマフを使っているので、それらと比較してみていきます。
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画像出典元:スリーエムジャパン株式会社 https://www.3mcompany.jp/
3M(PELTOR) H540A

遮音性能の高さで有名な製品で、通販(安全モール)で購入しました。7年ほど職場で使ってます。※画像・リンク先は同クラスのH10Aです。

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画像出典元:トラスコ中山株式会社 https://www.orange-book.com/
トラスコ EM-68N

比較的軽量な製品で、自宅で使ってます。同型機が家電量販店のイヤーマフ売り場にも置かれています。3年ほど使っています。

下調べ・性能比較

製品\周波数 125 250 500 1000 2000 4000 8000 SNR NRR 市価 重量
3M H540A 17.4 24.7 34.7 41.4 39.3 47.5 42.6 35 30 6300 295
トラスコ EM-68N 13.3 18.3 27.6 27.9 34.7 34.3 33.7 不明 22 3100 210
JVC EP-EM70 12.1 14.6 22.8 31.6 33.1 38.6 39.6 27 19 6100 273

 
 
ホームページなどで明らかになっている情報から、重量や防音性能を比較しました。(単位:Hz, dB)

JVC EP-EM70のカタログ上の性能は、
・価格・重量は3M 540Aとほぼ同等。
・総合性能(NRR)は、3M H540A>トラスコ EM-68N>JVC EP-EM70
・周波数ごとにみると、JVC EP-EM70は、250~1000hzあたりの遮音性能が少し低い。そのかわり高音域の遮音性が高め
といった傾向のようです。

性能データはそれぞれ下記より引用となります。
3M H540A(安全モール) / トラスコ EM-68N / JVC EP-EM70
参考サイト:安全モール 騒音対策・防音対策のイヤーマフ 遮音の目安

また、取扱説明書をダウンロードしたところ、JVC EP-EM70の各部品の材質が記載されていましたので下記に転載します。エラストマーは加水分解する恐れがある素材かのような気がしますが、私はあまり詳しくありません。

ヘッドバンド 飽和ポリエステル、ステンレス、熱可塑性エラストマー、ABS樹脂
スライダー ステンレス、ナイロン
インサート ポリウレタン
カップ 熱可塑性エラストマ― ABS樹脂
クッション 熱可塑性ウレタン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート

 
 

【実機を確認】

家電量販店で実物を少し試した感想です。

外見

JVC EP-EM70の第一印象は、ワイヤレスヘッドホンと見まちがうような、イヤーマフとは思えないなという感じがしました。

ひとつめの理由は、カップの厚みが他イヤーマフに比べ、とても薄いことです。カップの大きさは一般的に遮音性能に直結し、例えば3M H540Aを着用した際は、耳にお椀がかぶさったような外見になってしまいがちです。

ふたつめに、ヘッドホンと同様なカップの支え方です。他のイヤーマフでは耐久性を重視するためか、トラスコ EM-68Nのように外側に大きく張り出したり、あるいは3M H540Aのように針金がのびて抑えつけていたりしています。

JVC EP-EM70は、見た目について一線を画す差があり、普段使いできる新たなイヤーマフというキャッチコピーに納得しました。

重さ・バランス・フィット感

カップとヘッドバンドの重量バランスがよいため、ブラブラと不安定に動いてしまうことが少ないようでした。カタログで比較した際に、3M H540Aと重量が大差なかったので重たいかと思いましたが、安定しているのでとりまわしはよさそうです。3M H540Aはカップがとても重く、ヘッドバンドが軽いので、比較すると多少不安定に思います。

JVC EP-EM70はカップの薄さのため、指先でつまむような感じになり、少し丁寧に持つ心がけがいるようでした。3M H540Aは手先が不器用な私でも、カップを手のひらで包みこむように持つことができ、素早く付け外しできるのはメリットになります。私は職務上、イヤーマフを着用していても会話をする機会が多いので、職場では話しかけられたらすぐ外せるようにしています。そのため付け外しの素早さはとても大事なので、JVC EP-EM70を自分が使う場合は、持ち方になれるまで多少戸惑うかもしれないと思いました。

JVC EP-EM70の耳あてのクッションは、シボ状になっていて、ある程度の長時間の使用でも快適そうな印象でした。3M H540Aと似た感じです。対してトラスコ EM-68Nはツルツルした質感で、ベタベタしやすい感じです。耳がおさまるスペースの広さは、私は問題なく着用できましたが、JVC EP-EM70は、トラスコ EM-68Nより少し小さいようでした。

遮音性能

JVC EP-EM70は、一般的なイヤーマフと同等の防音性能があるようです。実際に着用し、家電量販店の店内の騒音という環境で遮音性能を確かめたところ、上記のようにカップが薄いため、防音性能はどうかと思いましたが、高音が多いと思われる店内BGMは防げてるようでした。ちょうど隣に展示されていたトラスコ EM-68Nとの比較では同等の防音性能と思われました。ただ職場で使うという場合には、私の場合は他の席の電話の声を防げる500~1000hzあたりの遮音効果が問題となるので、多少印象が違うかもしれません。

 

【JVC EP-EM70の特徴のまとめ】

JVC EP-EM70の特徴を以下にまとめます。

・正面から見たときのシルエットは、薄型のカップのため、既存製品と一線を画したスマートさがある
・防音性能は十分あり、とくに高音に強い。
・カップとヘッドバンドの重量バランスがよいので取り回しやすい。
・耳あてクッションは、ある程度長時間使用しても快適そう。
・部品の寿命と耐久性については、新製品のため未知数なところはある。

なお、JVC EP-EM70の製品ページでは、カフェで読書などで集中している様子や、バスで移動する際にリラックスしている様子という、利用シーンを想定した画像が掲載されています。ふだん私が職場で使っているような、職場で素早く付け外しするというシーンをメインでは想定してないようです。働くためというより、リラックスと集中のためのイヤーマフ、という印象を受けました。

それと電動ドリルで日曜大工をしているらしき使用例がありますが、あの用途に対しては、従来通りのイヤーマフのほうがよい気がしました… JVC EP-EM70では可動部に木くず等が詰まってしまうような気がします。

気になった点について

以上のように大変魅力的な新しいイヤーマフである、JVC EP-EM70の性能を調査・比較してきましたが、いくつか課題も思い起こされました。

・市価6,000円代というと、ノイズキャンセリングヘッドホンも一部検討できる価格になります。防ぎたい騒音に対しての相性がよいかどうか検討が必要そうです。とくに低周波数については、逆位相をぶつけるノイズキャンセリングヘッドホンの方が得意分野とされています。

・私自身がそのような体験をしたことはありませんが、イヤーマフを着用しているところで、ヘッドホンで音楽を聴いていると勘違いされ怒られてしまうという話を聞いたことがあります。この製品は見た目が本当にヘッドホンそのものなので、上記の誤解はさらに招きやすいような気がします。安全目的の大仰な用品から一線を画した、着用に違和感を感じない製品が普及することで、感覚過敏の当事者をはじめイヤーマフやヘッドホンのノイズキャンセリング機能を上手に活用する方が増えれば、上記の心配も少なくなるのかもしれません。
 
 
強い日差しに帽子や日傘を使い、細かい文字を読むときに眼鏡をかけるように、どれほどの日差しを苦しいと思うか、どれほどの細かい文字から眼鏡を必要と思うか人はそれぞれ異なります。騒音をどれだけ苦しく思うかは人それぞれであり、イヤーマフやノイズキャンセリングヘッドホンで対処する人もいるということが、当たり前に理解されるようになってほしいものです。

なお、私自身に関しては、今年末ごろに入手できる予定の、PanasonicおよびShiftallのノイズキャンセリング機能付きウェアラブルパーテーション「WEAR SPACE」をすでに予約してしまっていることもあり、予算の問題で、このイヤーマフをさらに購入する可能性は、、、実は低いです!
素晴らしそうな製品である、JVC EP-EM70を試され、購入された方は、ぜひ周囲の方に感想を共有されてはいかがかと思います。TENTONTOツイッターへのご感想もお待ちしております。
 
 
青いロク