ワイヤレスイヤホン型耳栓 Victor EP-S433を比較・使用レビュー

EPS433_1

Victor EP-S433(筆者撮影)

センサリーデザイン最前線 第65回

ライターの青いロクです。12月上旬に、JVCケンウッドより、ワイヤレスイヤホン型の耳栓「Victor EP-S433」が発売されました。(EP-S433 ニュースリリース|公式HP)2019年に紹介した同社のイヤーマフ「JVC EP-EM70」と同様に、聴覚過敏に悩む人も対象にしているそうです。この耳栓について調べたこと、購入して試してみた感想を紹介します。

ニュースリリースと公式HPの内容の紹介
公式HPの製品ページより、開発者からのメッセージを引用します。

(略)聴覚過敏は、日常の周囲の音が異常に大きく感じたり苦痛を伴って感じられる症状のことで、近年5人に1人が当てはまるとも言われているHSP(Highly Sensitive Person:非常に敏感な人)の特徴のひとつと言われています。 また、他にもさまざまな方が「日常で何気なく我慢している音」があり、それにより睡眠や集中力が妨げられている方も多くいらっしゃるようです。 「“遮音する”という心地よさを感じていただき、必要な時にいつでもどこでもみなさまに安心して過ごしていただきたい。」そんな想いでこの商品をつくりました。(略)

先行製品のイヤーマフ EP-EM70のニュースリリースでは「聴覚過敏」という困難さに触れていましたが、今回は具体例として、HSPという概念に当てはまる人たち、そして”何気なく音を我慢している”人、つまり今まで耳栓を使う習慣がない人、あるいは試したけれども既存のものでは使いにくく思った人を想定していることが分かります。

(詳しく話す機会は今回はありませんが)HSPとは環境感受性・または感覚処理感受性が高い人たちを現す心理学上の概念です。その感覚処理感受性の尺度に、大きな音や雑然とした光景のような刺激がわずらわしいかといった設問が含まれるようです。
私のような自閉症スペクトラムなどの発達障害者も、聴覚過敏という困難さを持つことがありますが、これは医学上の概念であり、社会と、本人の心身機能の障害があいまって現れるものであるため、HSPとは着目点が違います。
HSPの定義づけは本人の感受性の高さであり、ネガティブな環境から悪い影響を受けやすい一方、ポジティブな環境から良い影響を受けやすいとされています。
参考:ハイリー・センシティブ・パーソン|wikipedia

イヤーマフ EP-EM70は、工事現場・工場で聴覚保護のために使われる大げさなイヤーマフの遮音機能をできるだけ保ちつつ、外見を薄型のヘッドホンのようにして、聴覚過敏に悩む人が日常で使いやすいよう、他人から見た時の違和感を減らすという製品でした。
一方、今回の「耳栓」は、既存の商品も、日常的な聴覚過敏への対処方法としてごく一般的に用いられているものです。個人的には、耳栓に対して巨大なイヤーマフのような大げささを感じてませんでした。しかしリリースを見る限り、世間的には、耳栓の着用によい印象をもっていない方も多いと認識されているようでした。

EP-S433が既存の使い捨て耳栓、あるいはイヤープラグ型耳栓と比較してアピールしようとしている点は、下記のようでした。

  • 一般に知名度があるブランドと、ワイヤレスイヤホン型の外見により、耳栓の着用で他人から奇異に見られると思っている人が、着用しやすくなる
  • フォーム型の使い捨て耳栓に比べ、廃棄物の量、廃棄する回数が少ない(量としてはともかく、ゴミを捨てる回数が多いことでストレスを感じる人を意識するものかと思います)

 
購入を決めるまでの経緯
ところで、前回イヤーマフ EP-EM70を紹介した際(聴覚過敏者向けのスタイリッシュなイヤーマフ JVC EP-EM70 を調査・比較|tentonto)、店頭で試着できて十分比較可能だったため、またすでにパナソニック企画、シフトール製造販売のパーテーションつきノイズキャンセリングヘッドホン WEAR SPACE(WEAR SPACEを入手!ファストレビュー(1)|tentonto)を予約していたため、結局EP-EM70は購入しませんでした。
予算には限りがあり、しかたがないのですが、Googleで「EP-EM70」と検索すると、執筆時点ではその紹介の記事が1ページ目の最後に表示されます(本記事公開時には違うかもしれませんが)。ときどき、悪いことをしたかもと思っていました。

その後ある機会で、初めてワイヤレスノイズキャンセリングイヤホンを購入したのですが、JVCケンウッドという企業およびブランドにいい印象を持っていたので、JVC HA-A50Tという製品を購入しました。(JVC HA-A50T|公式ページ)通勤中や、仕事中に使用でき、便利に思っています。
一方で、あくまで音楽の視聴が主な用途であるため、素早く遮音するのにはあまり向かないようでした。具体的には、ケースから取り出し、スマートフォンと自動接続され、2回タップしてノイズキャンセルを有効にし、さらに必要ならスマートフォンでノイズ音を再生するという手順が必要です。もちろん同僚から話しかけられれば外し、またつけ直します。その際に誤ってタップしてしまうとノイズキャンセルがとまってしまい、やりなおしになります。(イヤーマフはより素早く付け外しできますが、重いので、イヤホンとイヤーマフを使い分けて対応していました)
上記のイヤホンの役割に対し、耳栓であれば即座に付け外しが可能と思ったので、下調べした上でEP-S433を購入しようと考えました。

 
他製品との比較・購入

製品 分類\周波数 125 250 500 1000 2000 4000 8000 NRR その他
測定法
市価
モルデックス フォーム耳栓 42.3 43.7 46.6 40.9 38.6 46.9 48.3 33 260(5個)
Thunderplugs PRO イヤープラグ 34.3 30.3 33.6 34.0 38.2 40.6 36.5 26 4000
EP-S433(低反発チップ) イヤープラグ 28.4 26.1 28.8 32.4 35.2 38.3 43.8 35 4000
LOOP Quiet イヤープラグ 27 2000
キングジム MM3000 デジタル耳栓 20 12000
キングジム MM2000 デジタル耳栓 25 9000
サンワサプライ
400-MMEP1
デジタル耳栓 22 10000
EP-EM70 イヤーマフ 12.1 14.6 22.8 31.6 33.1 38.6 39.6 19 4500
トラスコ EM-68N イヤーマフ 13.3 18.3 27.6 27.9 34.7 34.3 33.7 22 3500
3M H10A イヤーマフ 22.2 25.7 36.8 38.0 34.9 38.2 38.6 30 4000

※周波数あたりの遮音値はいずれも偏差補正前。NRRは偏差を補正した値なので少なめになります。
※JVC HA-A50Tをはじめ、音楽視聴用のノイズキャンセリングイヤホンは、Sony、Apple、BOSEなど各社含めて遮音値は非公表のようです。

遮音値(db:デシベル)を比較すると、低反発チップと組み合わせたEP-S433は、数値上はイヤーマフ EP-EM70以上の遮音性能をもつようです。しかし、私は付け外しの素早さを最重視するため、フォーム耳栓のように押しつぶして耳に入れ、膨らむまで押さえつける必要がある低反発チップは使いません。
購入後、シリコンイヤーチップで使用しましたが、高い周波数の音が多く、また音量自体も大きい掃除機の騒音を防ぐ力はトラスコ EM-68Nの方が高いように感じました。

量販店で販売されている近い性能・価格帯のイヤープラグでは、Thunderplugs、LOOP Quiet というものがありましたが、Thunderplugsは、耳を持ち上げて押し込む必要があるため、LOOPは遮音性能を詳しく公表していないため、EP-S433を購入することは問題ないようでした。なお、非常に小さい製品のためか、店頭での試着はできませんでした。

出典
モルデックス(PDF 34ページ)|moldex.com
BANANAZ サンダープラグス|dirigent.jp
EP-S433|JVC Victorブランドサイト
LOOP Quiet|modernity.jp
デジタル耳栓 MM3000|kingjim.co.jp
デジタル耳栓 MM2000|kingjim.co.jp
400-MMEP1|sanwa.co.jp
EP-EM70|JVC
トラスコ EM-68N|misumi-ec.com
3M H10A(PDF 11ページ)|3m.com

 
外見・触った感想
EPS433_2

EP-S433(左)と、JVC HA-A50T(右)のサイズ比較(筆者撮影)

EP-S433は、ノイズキャンセリングイヤホン HA-A50Tと比較すると2まわりほど小さく、片耳あたり2.5gとのことで、重さによる負担はとても少ないようです。

EP-S433の内部構造は公表されていません。装着時に外から見える部分の中身は不明です。吸音材でも入っているのかもしれません。白いシリコンの部分は触ると押しつぶれますが、イヤホンのノズルに相当する部分をふさいでも感触が変わらないので、独立したクッション構造になっているようです。ノズル内をペンライトで照らすと、奥にダストカバーらしいものが見えます。

ノイズキャンセリングイヤホンを模す外見のために、左右や装着方向の区別がありますが、他の耳栓ではその区別がないものも多いです。もし左右や方向の区別のない形状だったら、装着にかかる時間をもう数秒は短縮できたのでは? と思います。遮音性能が素晴らしいだけに、一番残念に思うところです。これは、外見をイヤホンに似せることで、他者から見られることを気にする人が着用する機会が増えることを重視するためと思います。また、低反発チップの使用を前提とするなら、押しつぶして耳の中で膨らむまで待つ必要があるため、付け外しの時間はある程度必要というつもりかもしれません。

シリコン部分は滑りにくくなっていますが、プロダクト自体が小さく、また外側は比較的滑りやすい質感です。私は手先が不器用なため、落としたり紛失しやすい恐れを感じました。公式HPでは用途として通勤、(飛行機などの?)移動、音楽フェスなどでの聴覚保護を例に挙げていますが、おそらくオフィスか自室内以外では私は使いません。

発達障害者の多くが発達性協調運動障害(DCD)という障害も併せもち、手指の不器用さや、全身を使う運動に不具合をもっています。手指の不器用さが聴覚過敏という特徴とも重複する場合がどれだけあるか不明ですが、もし聴覚過敏を持つ発達障害者も使用者として想定するのなら、考慮いただきたい点です。なおイヤーマフ EP-EM70の付け外しでも指先でイヤーカップをつまむような持ち方となると紹介しましたが、同じ理由で苦手と思います。

DCDの頻度は全体の5-6%で、他の発達障害と重複しない場合もありますが、ADHDの約30%から50%、LDの約50%でDCDがみられます。またASDがある場合は追加で診断されないものの約80%で同様の不具合があるようです。
参考:お茶の水女子大学・ヒューマンライフイノベーション開発研究機構 Q&Aシリーズ 発達障害 LD・発達性協調運動障害・チック障害編 (PDF 11ページ)|お茶の水女子大学 

ただ通勤通学中は不特定多数に見られる環境なので、メーカーが意図するような、従来の耳栓着用を恥ずかしいと思う人が、外見をイヤホンに似せたEP-S433を使う可能性があるシーンと思います。一般的な器用さがある人にとっては、紛失しやすいとは思われないものかもしれません。

なお、外見がヘッドホンにそっくりなイヤーマフであるEP-EN70でも指摘しましたが、EP-S433は外見が小型イヤホンにも見える耳栓であるため、音楽を聞いていると勘違いされて怒られるという恐れは同様にあると思われます。(私自身は以前からそのような経験はないのですが、一般的にそういう例があるそうです)

 
使用した感想
上述のとおり、EP-S433(シリコンイヤーチップ)は、掃除機のような高音を含む大きな騒音については、イヤーマフに比べ、あまり防げないようでした。

私の想定シーンであるオフィスで使用した際は、EP-S433は、空調の低音や会話の音について、HA-A50Tのノイズキャンセル機能と同程度の遮音性能と思いました。また、キーボードの打鍵音程度までの高音については、より遮音できているようでした。
EP-S433を使用するようになってからは、オフィス内では主にこれを使用し、HA-A50Tの使用頻度は下がりました。環境音を再生すれば、さらに騒音を打ち消す効果がありますが、手間がかかるため使わなくなりました。

オフィスで同僚から話しかけられて外した際に、うまくおさまる置き方がなく、使用者で工夫が必要そうでした。薄いため横向きに置いても安定しません。イヤーチップ側を上に向けて置くのは、他人から見たら汚いでしょうし、再度装着の際にひっくり返して持ち直さないといけません。かといってイヤーチップを下側にして、机に当たるように置くのも衛生的でなさそうでした。

なお、EP-S433は大変小型なため、さらにイヤーマフ、あるいはWEAR SPACEのようなノイズキャンセリングヘッドホンと重ね掛けて使用することも可能でした。いまのところ重ね掛けが必要な事態はないですが、選択肢が広がるのはうれしいことです。

 
EP-S433(シリコンイヤーチップ使用時)の総評

  • オフィス内、あるいは在宅勤務での騒音に対し、実用的な遮音性がある。
  • イヤホンのノイズキャンセル機能を有効にする手間・時間と比べて、素早い付け外しの利便性がある。
  • イヤーマフやノイズキャンセリングヘッドホンとの重ね掛けも可能で、応用性が高い。
  • 私個人は、通勤電車内で立っている場合、紛失を恐れて使わないだろう。

 
使い捨てではない耳栓(イヤープラグ)の購入は初めてだったのですが、期待通りの性能および使い勝手で、満足できています。JVCケンウッド社の今後の製品にも期待したいです。
 
 
青いロク