マインクラフトで世界一になった話 ~発達障害と「やりこみ」の歓び~
画像出典元:speedrun.com https://www.speedrun.com/
テントントの僕らの目が輝くもの 第20回
皆さんには、自分にとって居心地のいい、大好きな場所はありますでしょうか?
誰しもに最も必要なのは、安息できる場所があること。多くの人との感覚の違いやズレによって疲弊しやすい、発達障害をもつ当事者なら尚更、必要なのがそういった場所です。
TENTONTOではそういった、個人個人の感覚にとって居心地のいい場所をデザインする、センサリーデザインという欧米で生まれた考え方を広めるため、活動してきています。
さて、ASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠陥多動性障害)をもつ私にとって居心地のいい場所といえば、自分でアレコレ試して心地良さを作った自室はもちろんですが、もっと頭の中のイメージの世界まで含めるのなら、ゲーム『マインクラフト』の中に広がる自動生成された自然の景色が思い浮かびます。
これまでもTENTONTOでは、発達障害とマインクラフトの癒しについて記事にて紹介してきました。大学院の学生さんに、この類まれなゲームに関する研究の協力をしたこともあります。もしプレイされたことのない当事者の方がいれば、一度は触れていただきたいゲームです。
2021年大晦日、今年もうまくメンバーと一緒にやれる記事企画を組めなかった私は、せめても年末年始の時間を使って、ひとりで企画をやることにしました。その名も、マインクラフトで世界一をめざしてみよう!企画。
好きこそものの上手なれ、これだけ色々なところでマインクラフトの良さを伝えてきて、世界一このゲームの癒しの良さをわかっているつもりの私が、実際に世界一のゲームプレイを目指すことで、なにかマインクラフトに触れてもらうきっかけにならないか、と考えました。
さっそく調べると、マインクラフトRTA(リアルタイムアタック)という遊び方を見つけました。
RTAというのは、現実の時間を基準に、どれだけはやくゲームをクリアできるかを競う人気の遊び方です。といっても、ひたすらに広がる1mのブロックを使って、なんでも好きにできるマインクラフトは、決まった遊び方のあるゲームではないので、クリアの基準を色々とRTAを楽しむファンたちが決めて、参加したいルールで遊ぶ文化があります。
今回挑戦してみたのは、2019年に公開された、誰でもインターネットで無料でプレイできる『マインクラフトクラシック』。その中の『オールボーダーズ(ノーマル)』という競技種目になります。きのうに記録を出すことができ、きょう、SPEEDRUN.COMにて記録が承認されて、世界一となることができましたので、どんな体験だったのか記事にしてみたいと思います。
『オールボーダーズ(ノーマル)』は、クラシック版マインクラフトの特徴の、正方形に限られた範囲の世界を使って、新しくゲームを始めて最初にいる場所から、東西南北の4つの辺に到達するはやさを競う種目。ノーマルとは、ステージの大きさが普通ぐらいの広さ、という意味です。
毎回世界が生成され、ひとつとして同じところがないのがマインクラフト。どんな地形になっているか分からないので、どう走るかを工夫するのが楽しい競技です。
ゲームの主人公の足の速さから、80秒で走り抜けられるのが理想になりますが、地形の起伏が豊かなことでどうしても少しタイムロスが出るため、チャレンジするときの世界記録は88.4秒(2020年10月の記録)でした。
記録に挑戦するためまず取り組んだのは、「スタート地点はどこになるのか?」を調べることでした。一番はやく4つの辺に行くためには、まずひとつの角に向かい、その後反対の角へ向かって走ることになります。ステージの大きさから、世界記録を出すには26秒以内に最初の角に到着したい計算です。
スタート地点がたまたま角に近く、たまたま走り始めた方向が一番近い角の方向であれば、うまくいけば17秒台で最初の角に向かえることが分かったので、17~25秒台のラップタイムを出せるように意識することにしました。
といっても、マイクラクラシックは高速ダッシュが無いので、「前に走る」と「ジャンプ」を向いている方向に行なうだけのシンプルな操作です。シンプルなぶん、地形に引っ掛かってタイムロスしたとき、どうしたら避けられるかを考えやすくて助かりました。
次に、「どういう地形なら走りやすいか?」を調べました。マイクラクラシックには「泳ぐ」がないので、対角線を走る関係上、
中央付近や目指す角付近が海や川になっていれば走れません。スタート地点からみえる景色で、ステージの中でどこあたりか大体の位置を推理して、始めの段階で走りづらい場所や地形ならすぐに再生成することにしました。
あとは実際に、どの段階までその回でうまくいったかの統計を取りつつ、実際に繰り返すゲームプレイに入りました。記録の動画ではチカチカと表示されてしまっていますが、メモ帳を開いて、0から4の段階を決めて入力していることがわかるかと思います。
これをすると、一回一回の走りを、全体として客観的に捉えることができるので、何が問題だったかを考えやすく、また集中力も途切れにくいように感じました。
地形が走りやすかったとしても、スタート地点が最初の角から遠ければうまくいきません。地形が複雑なときは操作に集中してしまうので、とりあえず走ってみて時間以内に角につかなければ再生成、を意識づけられたのは、取り組みやすさを増させられてよかったと思います。
こうして取り組むこと5日。初日は研究に使ったので記録はありませんが、2日目は93秒、3日目は92秒、4日目は88.5秒、と、順調にタイムを縮めることができました。やっていくうちに操作にも慣れ、走るコース取りについても理解が深まり楽しかったです。
5日目の朝に85.2秒を出せたため、RTAファンの集まるサイトSPEEDRUN.COMに申請を出しました。人気のゲームのため、夜には担当の方がチェック、再計測をしてくださり、6日目のきょう、記録が認められ、目標の世界一になることができました。
こうして私の、ひとりひっそりと取り組んだマインクラフト企画は終わりを迎えました。
画像出典元:speedrun.com https://www.speedrun.com/
体感としては、80秒台はスタート地点と地形の好条件が揃わないと出ずらい印象ですが、90秒台であれば、操作さえ覚えれば比較的すぐに出すことができるかと思います。
マインクラフトをはじめ、こういったアクション要素を伴うゲームは、操作が不慣れなまま取り組むと酔ったり、もどかしさを感じやすいので、こうした遊び方による限界的練習(deliberate practice)を通して操作を覚えきってしまうと、そのゲームの持つ環境的な居心地の良さに触れやすく、より快適に遊べるようになると思いますのでオススメです。
『マインクラフトクラシック』の『オールボーダーズ(ノーマル)』に関しては、ルール上、どのようにスコアを伸ばしていけばいいかわかりやすく取り組みやすいですし、走り抜けた達成感もあり、まだタイムのはやくできる余地のある種目だと思いますので、世界記録に挑戦してみたい人はぜひ挑戦してみてください。
この種目もでしたが、どの種目にもやりこんでいる人がいて、だからこそファン同士の尊敬しあいからくるコミュニティが生まれている感じも、居心地のよさを求めたい発達障害の当事者として、好ましく感じました。
これからは世界一のマインクラフターのひとりとして、そのセンサリー(感覚的)な居心地の良さを伝えていけたらと思います。
ユミズ タキス