ドバイ万博、センサリー・アクセシブル・イベントに認定される
画像出典元:ザ・ナショナル https://www.thenationalnews.com/
センサリーデザイン最前線 第59回
ライターの青いロクです。本日は4月2日の世界自閉症啓発デーに合わせて発表された、海外のニュースをご紹介します。
ドバイ国際博覧会(Expo 2020 Dubai、ドバイ万博、公式サイト)での、発達障害者を含む障害者への配慮についてのニュースです。
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにて、2021年10月に開催予定の当博覧会。当初は2020年10月からを予定していましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大のため1年延期されたものの、呼称はExpo 2020 Dubaiのままとされています。
公式HPによると、ドバイ万博は「センサリー・アクセシブル・イベント」として認定されました(アクセシビリティへの取り組みが認められました|公式HP)。国際感覚アクセシビリティ委員会(International Board of Sensory Accessibility, IBSA)によるものとのことです。また上記に先立ち、各ニュースサイトからも報道がありました。
アクセシビリティと、センサリー・アクセシビリティ
アクセシビリティ(accessibility)とは、日本語では主に「利用しやすさ」と言い換えられます。
同じく国際的イベントである東京オリンピック・パラリンピック競技大会の資料(アクセシビリティ|東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)をみると、例えば、車いす利用者がすれ違ったり方向転換したりできる通路の幅の基準や、アクセシブルな座席として、前の席の観客が立ち上がったとしても、車いす利用者の視線が遮られない座席について記載があります。
そして、センサリー・アクセシビリティという言葉になった場合は、感覚の問題で利用しづらかった問題に配慮していることが該当するようです。
例えば(上記用語は資料に出ませんが)、高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準|国土交通省では、同様のことを目指すために、劇場・競技場においては、乳幼児連れ、知的障害者、発達障害者、精神障害者等に配慮して、区画された観覧室(いわゆる、センサリールーム)を検討することを設計のポイントとしています。
ザ・ナショナルの記事でコメントしている、Sensory Access(公式サイト)という団体では、例えば、映画館/劇場、コンサート、音楽フェスティバルといったイベントについて、大きな音や光の点滅といった強い刺激が生じる場面に配慮するといった方法で、センサリー・アクセシビリティについて、よりインクルーシブ(inclusive, 包括的)となるような活動をしているようです。
ドバイ万博の配慮の例
ドバイ万博で、発達障害児・者にどのような配慮があるか、公式HPおよび各記事の内容を引用し、私なりに内容を想定してご紹介します。
感覚過負荷や不安を経験している訪問者のために、4つの静かな部屋(Quiet Room)が提供される
役割としては、国立競技場に用意されている、「カームダウン・クールダウンスペース」のような休憩場所と思われますが、名称からすると、音について特に配慮したものかもしれません。なお、この施設は2020年の世界自閉症啓発デー後にもアナウンスされており、地元組織との協力によるものだそうです。
(昨年のリリース)誰もを受け入れる「カーム・スペース」|公式HP
参考:謎の設備「カームダウン・クールダウン」とは?新国立競技場の先進的ユニバーサルデザイン|livedoor NEWS, Sports Watch提供記事
国立競技場のカームダウン・クールダウンスペース|画像出典元:livedoor NEWS https://news.livedoor.com/
さまざまな訪問者の経験に関する感覚情報を、訪問者が事前に感覚負荷を確認したい場合は、Webサイトからダウンロードできる
例えば、音や光の明滅といった、刺激が多い場所やイベントを事前に知ることができるようになっているのだと思います。当事者は、帽子・メガネや防音器具といった保護具を使用して楽しめるかもしれませんし、あるいは実際に入場して負荷がそれほどでもなければ、保護具を外して楽しめるでしょう。いずれにせよ、仮に道具を準備していたとしても、突然の音や光、そのほかの刺激に驚いてしまうのを防げそうです。
日本でも、発達障害児・者向けにANA等が航空機での旅行の疑似体験を行うツアーが実施されていました。また、例えば金属探知機でブザーが鳴る場合があることや、機内トイレの吸い込む音を聞ける動画も公開されているようです。
参考:発達障害ある人も気軽に空の旅を 成田空港で搭乗ツアー|朝日新聞アピタル
ヒマワリ柄のストラップ(Sunflower Lanyards)を着用すれば、隠れた障害があることを慎重に知らせることができる
このストラップは、日本で例えれば、東京都福祉保健局・都営交通からその後他の交通機関へ広がった「ヘルプマーク」と同等の役割を持ちます。外見からは援助や配慮を必要としていることが分かりにくい人々が、周囲の方から援助を得やすくすることが目的となります。
ヒマワリ柄のストラップは、イギリスのガトウィック空港で2016年から使用され、その後イギリスの各公共交通や商業施設でも使用されていっているものです。現在では近隣国に加え、トルコのイスタンブール空港やオーストラリアのシドニー空港も、この取り組みに賛同しているようです。
参考:ヘルプマーク|東京都福祉保健局
参考:隠れた障害のヒマワリ 公式サイト
ヒマワリ柄のストラップ|画像出典元:隠れた障害のヒマワリ https://hiddendisabilitiesstore.com/
導入される予定の他の機能には、3Dビジュアルマッピング、オーディオナビゲーション、触覚フィードバックなどの機能を備えた、Expo2020の公式プレミアパートナーであるSAPと共同で開発されたPODiumアプリが含まれる
視覚や聴覚に障害を持つ人たちを案内するアプリで、展示物のキャプションの(二次元?)バーコードを読み込んで音声ガイドを聞いたり、補聴器の補助アンテナ(hearing loop)の位置や、補助犬リリーフエリア(トイレ等かと思われます)の位置を案内できるようです。来場者に直接かかわる配慮ではないですが、SAPは自閉症者をとても積極的に雇用しているので、併せてご紹介します。
参考:独SAP、自閉症の人の雇用推進 20年に全社員の1%に|日本経済新聞
ドバイ万博、そして2025年大阪・関西万博に期待
本記事では、感覚への配慮に関する国内外の例を合わせてご紹介しましたが、このような配慮は、単体であれば類似例が実現しているものではあります。ドバイ万博における支援モデルとしての前進は、いくつもの配慮を組み合わせ、当事者や関係者がより快適に利用できる事例であることです。これが実現し、よい結果をもたらせば、大変望ましいことだと感じます。
このような「センサリー・アクセシブル・イベント」が増えることで、当事者や家族がより多くの選択肢からイベントを選べるようになりますし、音や光の刺激が過剰でないか下調べしたり、問い合わせたりしていた労力が減るため、助かることは間違いありません。
ドバイ万博は、遠方なので私自身は訪れませんが、2025年には、次回の大規模博覧会である大阪・関西万博が予定されています。ドバイ万博と同等の障害者や配慮の必要な方への取り組みが行われる可能性は高く、さらに(今の時点の)私の思いつかないような、より素晴らしいことが実現して欲しいと思いました。
青いロク