コラム:刺激たちと暮らすこと

navi
(火) N = ナビ(案内)

センサリーデザインに関する知識や、ビッグニュースをお届け。
 
 

単に刺激を減らせば良い?

センサリー・スティミュレーター。ASDを持つ方向けの製品機能の説明書きに、よく登場する言葉です。感覚刺激装置という意味で、五感を心地よく刺激することで、嫌なことから自分を一旦離し、気持ちを落ち着かせるような機能を指します。以前センサリーデザイン最前線第1回第3回でご紹介したデザインは、このような機能をデザインの核にしているプロダクトです。

ASDを持つ方へ一般的に抱きがちな支援方法として、自閉症を持つ方は神経が過敏な傾向があるので、目にはサングラスを、耳にはイヤーマフを、と言った形でとにかく刺激をなるべく少なくするものを用意すると良い、というものがあります。簡単にまとめると、刺激を減らすことが重要、という考え方です。これは近年研究の進む自閉症スペクトラム(ASD)という考え方においては、必ずしも適切ではありません。スペクトラムとは自閉症状の多様性を表現する言葉です。


このサイトの一コーナー、センサリーデザインとは?でお伝えさせて頂いているように、人間ひとりひとりには異なる感覚感受性が備わっています。多くの方と比べて感覚感受性のずれが大きい方を、私達はテントントさんと呼ばせて頂いています。テントントさんは感覚感受性のずれから、特定の刺激を敏感であるがゆえに避けたり、鈍感であるがゆえに過剰に求めたりする方々です。そして、テントントさんであるASDを持つ方はとても多いとされています。

刺激の正体を感覚感受性から考える

私達人間は、世界を刺激という形でしか捉えることが出来ません。イメージしやすいよう、あなたの家で喩えてみましょう。眼や耳などの感覚器は、あなたの家の玄関の扉や窓に、感覚感受性はそこに暮らすあなたの体感そのものに相当します。刺激は家の外から来る光や風や雨、見えないものですと温度や音、あるいは友人や配達員や泥棒といったものに相当します。今が真冬で、もしあなたが生まれつきとても寒がりだったとしますと、玄関の扉や窓を閉め切り、服を着込んだとしても、寒さが家の壁や服を突き抜けてあなたを刺激します。この場合、あなたはこたつやエアコンなどの暖房器具を使おうとするでしょう。暖房器具は温かいという刺激を発生させるものです。つまり、不快な刺激から逃れるために、快の刺激を導入したことになります。センサリー・スティミュレーターは、ここでの暖房器具のようにテントントさんをサポートするような装置と言えます。

つまりASDを持つ方への支援と一言で言っても、その方の感覚感受性に合わせて、様々な対応が必要になるということです。場合によっては強い刺激が必要になることもあります。また、外から来る刺激の中にはその人にとって心地良かったり必要な刺激、たとえば太陽の光や風、友人や配達員なども含まれますので、家を閉め切ることばかりが重要ではありません。その人にとって最も快適な暮らしを実現するためには、その人の感覚感受性を正確に捉え、分析し、柔軟な支援方法を取ることが必要だと、私達TENTONTOは考えています。

ユミズ タキス
 
 
 

~こちらは2015/02/17公開の記事の再掲載です~