【レポート】川崎市 商業施設における「クワイエットアワー」の取り組み(イオンスタイル新百合ヶ丘)

店頭看板
イオンスタイル新百合ヶ丘1F入り口に掲示されていた看板

ライターの青いロクです。2019年7月28日(日)朝9時から10時の間、神奈川県川崎市麻生区 新百合ヶ丘駅前にある総合スーパー イオンスタイル新百合ヶ丘1F 食品・日用品売り場において、日本で初めての「クワイエットアワー」が実施されました。これを実際見てまいりましたので、様子を紹介します。

クワイエットアワーについては、日本初・川崎市のショッピングモールで「クワイエットアワー」を実施にて概要を述べた通りですが、音や光を減じて、感覚過敏当事者が買い物しやすい時間帯をつくる取り組みで、海外事例では来客が1割増えた実績もあります(NHKウェブサイト)。

朝9時から10時で実施とのことでしたが、8時50分ごろに現地に着いたところ、すでに消灯やBGM停止が実施されているところでした。
なお、写真撮影については、イベント担当者に確認したところ来客のプライバシーに配慮すれば問題なく可能とのことでした。

眩しさの軽減

冷ケースの照明でもっている例
複数回路の天井照明があり、また冷ケースにも照明があるので適度に眩しさが取り除かれた例

ベース照明がなく暗すぎる環境
天井の照明がすべて消灯してしまい、他と比べて暗すぎる例

食品スーパーは通常、ベース照明とスポット照明、場合によっては間接照明を組み合わせた照明計画となっていますが、今回は回路ごとに消灯し、明るさを減じています。

聞いた話では、ある海外ブランドのアパレルチェーン店では、開店準備時間等に照明を減灯できるよう、当初から均等に回路が分けられていて、このような場合は簡単に減灯が可能かと思います。

しかし今回の例では、均等に照明の回路が分かれていないので、かなり照度にムラがでてしまっています。とくに、写真の冷蔵ケースや平台什器の箇所、日配のパン売り場や、青果売り場は蛍光灯のような色温度の高い(白っぽい)ベース照明が当初から天井に設置されておらず、電球色(黄色っぽい)のスポット照明を用い演出していますが、唯一の光源であるスポット照明を消灯してしまっているので、他と比べ明らかに薄暗いです。商品の魅力を伝えにくいばかりでなく、店頭では高齢の方が、暗くて商品の文字が読みにくいなどと店員に訴える様子も見受けられました。
 

一人の当事者としての意見ですが、問題なのは明るさというよりも眩しさであり、むやみに暗くすればよいとは思いません。また、暗めの場所と明るめの場所を行き来することによるストレスも無視できないものと思います。

特に食品スーパーの既存店では、それぞれの店舗ごとにどの回路を消灯しどれを残すかというオペレーションを決めていく必要があり、クワイエットアワーの取り組みをより多くの店舗で実施しようとした場合に大変になりそうです。明らかにベース照明に重複して照らしている演出照明以外は、止めなくてもよいのではないかと、少なくとも今回の試行では感じました。

一方 例えば、ドラッグストアや家電量販店には大量の照明が設置されていて、かなり眩しいのですが、照明の配置が比較的均一なので、回路が分かれていれば、適度に減灯できる場合もあるかもしれません。(上記のNHKのクワイエットアワーの紹介でも、家電売り場と衣料品売り場での実施例が映像になっていました。)
 

店舗でスムーズに減灯するには、まず一つは、上述の海外アパレルチェーンのように新築時から減灯を考慮することと思います。

二つ目は、近年では無線制御で自由にグループ分け・調光できる照明器具も安価になってきているため、そのようなものを採用いただくことです。クワイエットアワーを実施する際だけではなく、時間・天候や催しものに応じた適切な照明演出が可能となります。しかし食品スーパーで採用されるほど安価かは確証がありません。

私どもの調査不足で恐縮ですが、海外の食品スーパーでの減灯事例を調べる必要がありそうです。

照明については、クワイエットアワー終了後20分ほどで、おそらく通常の設定に復帰できたようでした。

音・騒々しさの軽減(映像・BGM・呼び込み)

映像・音声の停止-(5)
アプリの案内や、商品の説明のため、確認できただけで11台の呼び込み君・小型モニター・ラジカセが店内に設置されていたがすべて一時停止中(音の発生源としては、柱やレジのデジタルサイネージもさらに加わる)

特徴的なメロディの「呼び込み君」や、売り場に設置された小型モニターで流れるCMは、カジュアルな売り場の演出に役立ちますが、大変騒々しいです。ときには動態検知機能すらついていて、近づいて不意にCMが始まったとき、飛び上がるほどに驚いてしまいます。

今回の取り組みではこれらはすべて停止されていました。回路ごと一括で切れる照明に比べれば、一台ずつ止めて回る手間は当然あるものの、開店時・閉店時の毎日のルーチンとして確立しているのであれば、店の現場にかかる負担はそこまではないと思われます。
 

これに加えて、店員それぞれの呼び込みも自粛することで、実際かなり静かな環境が実現できていました。途中から出てきたらしい店員が呼び込みを始めてしまっても、売り場のリーダーらしい人がすぐクワイエットアワーを実施中であることを伝えていたようで、静寂が守られました。

クワイエットアワー終了後の復帰については、すべて見て回ったわけではないのですが、呼び込み君や映像モニターは20分では一部しか復帰されていなかったようでした。また柱面の大型デジタルサイネージなどは、離れた管理室から映像を制御しているようで、すぐには復帰しませんでした。(ルーチンとして組み込まれれば対応が早くなる可能性はあります)

なお店舗BGMについては、入店から退出までずっとかからないままだったので、よく比較できませんでした。また、レジのチェック音も小さくなっているとのことだったが、聞いている範囲では判別できませんでした。普段近所にイオンがなく、利用していないためでもあります。

カームダウンスペース

店舗の奥まった位置にあるエレベーターホール前に設置された、椅子とテーブルを衝立で囲ったものでした。

まとめ

つい先日までは、国内の競技施設に仮設とはいえセンサリールームが設置されることや、商業施設でクワイエットアワーが実施されることは全く見通しがありませんでしたが、こうして実現され感慨深い思いです。
ぜひ定期的に行われるようになってほしいし、感覚過敏当事者、一般のお客様、店員の皆様、運営する会社様 いずれにあっても利点のあるものになってほしいと思っております。

(イオンスタイル様が全般照明ばかりではなく、かなり照明演出に力をいれた店舗となっているためもあり)照明の適切な減灯をいますぐに多くの店舗で実施するのは、なかなか難しいのではないかと思いますが、
音を抑える取り組みは効果が大きそうなので、もし好評であれば呼び込み君や小型モニターの一時停止、呼び込みの一時中止などを、売り場や店舗を変えて有効な場面を検討されてはと思います。
 

試行を重ねることで、継続可能な形が見つかりますよう、川崎市様とイオン様の取り組みを応援します。

 
 
青いロク