退屈、なだけじゃない、ASD & ADHDにとっての「システム」の話。~チェス編~

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画像出典元:Lichess.org https://lichess.org/

代表のユミズです。これは私の愛用の「グルゲニゼシステム」の図です。今日は趣味のチェスの話を通して、発達障害(自閉症スペクトラム)当事者の好むシステムというものと、センサリーデザインについて語ってみたいと思います。
 
 

発達障害(自閉症スペクトラム)の当事者はシステム化指数(SQ)が高いとされているが、私もシステムが大好きだ。システムへの愛好は、メモリ(作動記憶)が小さく、見落としを多発させやすいASD+ADHDの私の身を非常に助ける。

電車しかり、自然科学しかり、コンピュータしかり、シミュレーションゲームしかり。いつも自分を助けてくれるから、決まった動きをするものの構造に興味が湧くし、研究し、自分がシステムを作ることにも熱心になれる、というものだ。

さて、頭脳スポーツ、チェスの序盤定跡(オープニング)にも、システムと呼ばれる種類のものがある。細かい相手の応手を覚えていなくても、ほとんど同じ陣形を組めるタイプの定跡だ。面白い話題なので、チェスをやったことがない人にも伝わるよううまく言葉を選んで書きたい。


 
 
基本的にチェスは、一手一手、相手の手に対しての最善を考えるあそびなので、システム系の定跡はその基本からすれば外れたところにあるため、「退屈」と称されることがある。しかしながらシステム系の中でも強い定跡は強く、現在世界最強のチェスマスター、マグヌス・カールセンも、そのひとつのロンドンシステムを使って、いくつも勝ち星を挙げている。

この手の頭脳スポーツに触れてこなかった(若いころはスポーツで体ばかり動かしていた)私のチェスの腕前は、正直そこそこといったところ。それでも、この世界一人口が多いゲームで気軽にオンラインバトルができるところまでになったのは、システム系の定跡との出会いがあったからに他ならない。

システム系以外の定跡(一手一手、相手の手に対しての最善を知っていくタイプ)も、研究すること自体は楽しかった。今や無料のチェスソフトも非常に強力なエンジンを搭載していて、この複雑なゲームのもっとも美しい手は何なのかを探していくのはとても楽しい。チェスというひとつのシステムへの理解を深めることは、それだけで楽しいことである。
 
 
 
しかし、試合となるとそう悠長に構えてもいられない。ADHDの「機敏を愛する心」を満たすためには、ブリッツ(持ち時間数分の早指し戦)などで遊びたい、とはいえ通常の定跡だと、その時間の中でできることがかなり限られてしまう。

研究を思い出したり活かそうにも、メモリが充分にないので展開しきらないわけである。これは苦しい。やりたいことが思うようにできず、ミスを連発することになる。習熟をしようにも、頭に習熟の助けとなる構造が伴っていないため、いくらやってもうまくならない。

システム系の定跡は、その点とても優秀だ。白番(先手)と黒番(後手)で1つずつシステムを覚えておけば、相手がよほど変わったことをしてこない限り、なじみの陣形を使うことができる。ちなみに私の過去200試合を調べてみると、71%は自分のシステム系定跡に持ち込めていることが分かった。

これはけっこうすごいことで、陣形を組むのにほぼ持ち時間を消費せず、中盤以降のどう躱してどう攻めるか、を、時間管理しつつ取り組む余裕をつくることができる。それでもミスはするが、なぜミスしたか考えやすいし、その研究を試合に活かしやすいことがとてもよいのだ。
 
 
 
 
チェスをやるような人間にさえ、退屈と揶揄されがちなシステムというもの。しかしシステムが、発達障害当事者にとっての心地良い(センサリーな)要素であることが多いのは、こういった脳の使い方のバランスが異なっているところが関係しているだろう。

ゲームとしての基本から少し外れても、自分の特性を活かすという、生きることの基本に忠実になれること。そういう部分に確かに自由があるような外的環境、内的環境をデザインすることこそが、社会に生きる我々にとって必要なセンサリーデザインなのだと思う。
 
 
ユミズタキス
 
 
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