センサリーデザインは言葉
イギリスを中心に自閉症者の環境改善の手段として大きな関心を集めるセンサリーデザイン。一見意味不明な内容の並ぶ私たちTENTONTOのフリーペーパーと当サイトは、このセンサリーデザインについての理解を深め、活用していただきたいという私の思いからスタートしています。
カイロ大学の研究生だったマグダ・モスタファ女史が、2002年にセンサリーデザインという言葉を用いて自閉症者向け建築・環境の提案をしてから、この言葉はデザインを志す人々の中で一般的に知られるようになりました。センサリートイという感覚を心地よく刺激するおもちゃのジャンルがあったり、感覚過敏者の避難場所(セーフ・ヘイヴン)をセンサリールームと呼ぶこともあります。
一方、センサリー(感覚の)という語は自閉症関連の話題以外にも使用されます。感覚的に心地よいリラックスする空間や、視聴覚に訴える激しいライヴなどのエンターテイメントにも、よくセンサリーという言葉が使われます。元々神経科学のニュアンスのある用語なだけに、どちらかというと理性的に現象の激しさや効果の高さを伝えられるイメージのある語のようです。
私は日本に住む自閉症者に関わる多くの皆さんにセンサリーデザインを伝えたいと思っています。なぜなら、それは自閉症スペクトラムの当事者として「体感として気が付きにくい」のにも関わらず、しかし私の生活において「より大きな価値のある」ものだったからです。センサリーデザインは自分自身見落としていた、自分の抱える問題を解決するために大事なものだったのです。
センサリーデザインを多くの方に理解してもらうためには、私自身その本質を深く理解する必要があると思っています。単に自閉症者向けのデザインというわけではなく、「ひとりひとり生まれつき持っている感覚が違っていて、それを考慮し感覚に則した設計をする」ことがこのコンセプトの核です。つまり「自分が心地いいものはその人も心地いいに違いない」の対極、「自分とは全く異なるその人は、どんなものが心地よいと感じている世界を生きているのか」を考えていくことになります。考慮すべき特性を持つ障害はASDのみに留まらず、ADHDやLD、SPD、OCD、気分障害といった要素も欠かすことができません。知識と想像力をフルに発揮しなければならない骨の折れる作業ですが、世界のニュース、学術論文や、当事者の方の生の意見に触れ合う中で、思考における似た傾向や共通している要素について、当事者・デザイナーの両方の観点で日々研究をしています。
先日描いた私のジグソーパズルの図は、こういった私自身が思考を深めていく中で思いついたアイデアを記したものです。ジグソーパズルは多くの人と比べてシステム化指数の高さによる影響を強く受けている自閉症スペクトラム者を表すアイコンとしてよく用いられています。そのジグソーパズルのピースから着想したのが、角や辺のピース。ジグソーパズルを作ったことのある人ならお分かりかと思いますが、まず角や辺のピースを手がかりにして、完成形の全体像を描き始めていくと思います。膨大なピースの中で、角や辺のピースは自閉症者の混乱や不安を落ち着け、思考のスタートラインを担保する存在として、センサリーデザイン的な要素を持っていると、私は考えました。
こうして少しずつ概念を咀嚼していき、創作物という皆さまの心に届けられる形に還元していく活動としても、私はTENTONTOを大切にしています。今後も自由な発想を大切にして、さまざまな試みを行っていきたいと思っています。その中に皆さまの「感覚に響く」記事がありましたら、大変嬉しく思います。
ユミズ タキス
「真面目系クズ」こと、ゲーム大好き当誌編集長。
豆とナッツが大好物。Yutaniに描かれた似顔絵は「石」。
確かに「つよくてかたいいしのおとこ」と肌の色が似ている。
趣味はウィキペディアの「誤謬」のページを眺めること。