映画『500ページの夢の束』センサリーフレンドリー試写会体験レポート

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©2016 PSB Film LLC

 
TENTONTOメンバーのmarfです。本日は先日行われた映画『500ページの夢の束』センサリーフレンドリー試写会の体験レポートをお届けします。

これまでTENTONTOでは、海外で活発になっているセンサリーフレンドリー上映の試みについて記事にてご紹介してきました(下部の関連記事参照)。今回はTENTONTOメンバーのユミズタキス、marf、なるやえにし、青いロクの発達障害当事者4名で、記者として試写会に参加しました。発達障害の当事者ということで、当日は来場の方々と同じ条件で鑑賞させていただき、とても貴重な体験ができました。

既に毎日新聞デジタル毎日様、発達障害ニュースメディアたーとるうぃず様で写真とともに詳しい記事も公開されています。TENTONTOではセンサリーフレンドリーの実体験の感想を、インタビュー形式でメンバーそれぞれからお届けしてみたいと思います。当事者の視点で気づいたこと、思ったことを記事にすることで、これから体験してみたいという方への参考になりましたら幸いです。
 
 
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ユミズタキス

①ご自分の障害特性について簡単に教えてください。(生活のなかで苦手なことや工夫が必要なことなど)
ASD+ADHDの当事者で、人目につきにくい振る舞いはかなり苦手な自覚を持ってます。じっとしているとかなり疲れます。注意欠陥もあるので、時間に間に合うように動くことにも人一倍ストレスを受けてしまいやすいと思います。あとは指先の触覚の過敏から潔癖症でもあるので、ウェットティッシュの携行は欠かさないようにしてます。音や光、味覚については鈍めな傾向があるかもしれません。そういう点では映画のような激しい感覚刺激も結構いけます。

②普段どれくらいの頻度で映画を劇場へ行って観ますか?
年1回くらいだと思います。自分から積極的に見に行くことはほとんどないですね。もっぱら居心地よくした自分の部屋のモニターで映画を見ることが多いです。映画館は制約が色々と大きく、また人が多いのもあまり好きではないので。

③そのとき、どのような工夫をしていますか?
あまりできることはないですけれど、席に着いたらなるべくリラックスに努めてますね。動いてしまうと後ろの方に迷惑かかるかなとも思ってしまいますし。忘れ物が多いのでなるべく荷物を鞄に入れてまとめておくとか、人が一気に移動するタイミングは避けて移動するとかはしてます。

④今回のセンサリーフレンドリー試写会は、通常の上映環境と比較して、どこが良かったと感じましたか?
まず、センサリーフレンドリーな試み自体が大変意義のあることだと思います。日本ではほとんど事例がなく、欧米と比べて遅れている部分ですので。一番よかったのは映画とは関係のない上映前の広告が流れなかったことでしょうか。あれはかなり集中の妨げになりますし。大きな音のアナウンスもなく、フリップや上映始めますの声で状況を知らせてもらえて、粛々と待てたのはよかったです。試写会に関しては撮影陣が入っていることでの独特の緊張感が流れていましたが、通常の上映会であればよりリラックスして映画を観れるかなという感じはしました。

⑤そのほか、気になったことがありましたらコメントお願いします。
全体にスタッフが緊張しすぎているかなと思いました。繊細さと大らかさを両立することは難しいんですが、やはり映画鑑賞も娯楽ですので気を楽にして楽しみたい、と当事者も思っています。パニックになったときに休めるブースも用意されていましたが、腫れ物を扱うような空気感の中で自然に利用することはなかなか難しいと思います。スタッフの方には専門的な訓練を受けること、回数を重ねて慣れることの両方を引き続き進めていただいて、より心地よい体験を作り出していただけると嬉しいなと思います。
 
 
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marf

①ご自分の障害特性について簡単に教えてください。(生活のなかで苦手なことや工夫が必要なことなど)
自閉症スペクトラム症状(ASC)があります。人ごみ、大きな音、強い光が苦手です。耳からの情報の聞き取りが苦手なので、メモをとりがちです。外出時はマスク、イヤホンが必須です。

②普段どれくらいの頻度で映画を劇場へ行って観ますか?
ほぼ行きません。「大迫力!」「衝撃の~」といったアオリ文句にわりと本気で怯えていたりします。

③そのとき、どのような工夫をしていますか?
スクリーンから遠くの座席を選びます。隣や前後に人が座っていると緊張するので混んでいなさそうな回をねらいます。音が大きくて耐えられないときのためにイヤホンを手元に持っておきます。曲をかけるわけではないけれど、耳栓代わりに使いやすいので。体力をかなり消耗するので睡眠を十分にとっておくようにしています。上記のようなことに労力を割いてしまうことを考えると、自宅鑑賞でいいかなと思ってしまうことが多いです。自宅のPCモニタで鑑賞する方が音量やモニタの明るさを調整できるため、安心して内容に集中できるというのもあります。

④今回のセンサリーフレンドリー試写会は、通常の上映環境と比較して、どこが良かったと感じましたか?
最新作の映画をセンサリーフレンドリー上映で観られたこと→自宅で鑑賞する場合は公開からレンタルやパッケージ化を待たなくてはならないから、映画館ですぐにみられたことはよかったです。
上映中も客席が真っ暗にならなかったこと→手元が見えるのでメモをとって聞き取りの苦手な面をカバーできたと思います。
座席の人口密度が低かったこと→パーソナルスペースに余裕があったため、集中しやすかったです。

⑤そのほか、気になったことがありましたらコメントお願いします。
自分にはセンサリーフレンドリー試写会中の音声でも音が大きすぎたので、シーンごとにイヤホンをつけたり外したりしていました。出入り自由でも隣の席との間が十分に空いていないと席を立ちづらいと感じました。スタッフと来場者の緊張感が漂っていて、自分もつられて緊張してしまいました。また、この劇場特有のにおい(木のにおい)がしばらく気になってしまい落ち着きませんでした。

用意されたクールダウンスペースに座ってみた感想
ちょうどよい狭さは人によるかなと思います。実際に体験してみましたが、仕切られていたスペースの方を使用しても、私にはやや広いと感じました。しかしロビーよりは格段に落ち着けました。角の隙間からガラス越しに外の景色が見えて、ガラスの向こうにいる警備員の方と目が合いそうでどきどきしてしまいました。視線を遮りつつ自然光を取り込めるともっと良いと思いました。
 
 
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なるやえにし

①ご自分の障害特性について簡単に教えてください。(生活のなかで苦手なことや工夫が必要なことなど)
大雑把で、物や事の管理がとにかく苦手です。聴覚過敏の傾向があるので、出かける際は手放せない、とは言えないまでも、いつもイヤホンをつけて音楽を聞いています。

②普段どれくらいの頻度で映画を劇場へ行って観ますか?
月に1回行くかどうかくらいです。

③そのとき、どのような工夫をしていますか?
じっとしていること、同じものに集中することがとても苦手なのですが、どういうわけか突然「今日は大丈夫だな」と思えるときがあります(映画館で映画を見るととても疲れるので、たぶんかなり体調がいい時です)。見たい映画は多くあるので、そういう日は迷わず行くようにしています。逆を言うと工夫は全くできていません。

④今回のセンサリーフレンドリー試写会は、通常の上映環境と比較して、どこが良かったと感じましたか?
館内も明るかったため、どうしても集中力が切れてしまった際にパンフレットを読むといったことができてよかったです。映画を見る以外の動きをとることが許されていると、とても気持ちが楽でした。
 
 
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青いロク

①ご自分の障害特性について簡単に教えてください。(生活のなかで苦手なことや工夫が必要なことなど)
ASD(自閉症スペクトラム)当事者です。表情を見分けることや、言葉の聞き取りが苦手です。また、とっさに判断して行動することが苦手です。

②普段どれくらいの頻度で映画を劇場へ行って観ますか?
今回の試写会で、生涯を通じて三度目の劇場での鑑賞でした。長編の鑑賞に限ると、20年前が最後だと思います。なぜ見に行かないのかというのは、自分でもよくわかりません。やはり聞き取りが苦手で、他の人と同じペースで理解できないことが一つです。映画館で一時停止や巻き戻しはできませんから…他には、以前映像を学んでいた友人の、自作自演の暴力的な映画を見てしまったあとに、まったく現実と見分けがつかなくなってしまって何か月も苦しんだことがあるからかと思います。思い起こすと、それが心療内科にかかりはじめたきっかけでもあります。

③そのとき、どのような工夫をしていますか?
今回は、できる限り内容を事前に理解してから行きました。もし結末のネタバレがわかる場合、かならずそれを知ってから行くと思います。展示会など、他の催しものでも同様に対処しています。イベント参加全般に言えることですが、早めに現地に到着して食事をとったり、お手洗い等の位置を確認します。そうすることで、あたかも動物がその場にマーキングするように、そわそわした感じを少しはおさめることができるように思います。

④今回のセンサリーフレンドリー試写会は、通常の上映環境と比較して、どこが良かったと感じましたか?
お手洗いの位置の掲示が分かりやすくなっていたのは、上記のような理由でよかったと思います。メモはとれないものと諦めていましたが、比較的明るかったので大丈夫でした。主人公もメモ帳をとても大事にしていましたね。私も書いておかないとすぐ忘れてしまいます。クールダウンスペースについては大変貴重な取り組みで、ありがたく思います。私は目で見えるものが気になってしまうので、外から遮られていない点、遮音材が固定されていなくてゆらゆらしている点が気になって、実際に椅子に座って居心地を試すのを忘れてしまったのですが、今となって大変悔いています。

普段、商業施設の設計施工等を行う会社で働きながら、発達障害者等の感覚の違いのある人と、一般の人がどちらも快適に過ごせるようにするはどんなことができるのか、設計や提案ができる立場ではないのですが、悶々と考えております。今回のクールダウンスペースは、設置しやすさを念頭に置いているとのことですが、ぜひその手法を広めていただき、たとえば保育園の保父保母の方々で自主的に設置したり、あるいは障害児の親や、または成人した当事者が設置できるほどにまで洗練できればこれほど素晴らしいことはないと想像しました。

また2016年熊本地震では、発達障害児を連れた家族が、避難所の生活に適応するのが難しいということで、避難所に入るのをあきらめてしまったという話も聞きました。将来的にはそのような場においても、ありあわせのものと、その場に居る発達障害にまったく関わりのない善意の人々だけで落ち着ける場所が作れるほど世間の理解が広がり、また深まるときがくればと願います。雨が降っていたら傘を差しだす、その程度のありふれたやさしさで、感覚の違いに苦しむ人を助けられるときが来るよう、私も技術を身に着け、また人々に感覚の多様さを知らせていけるよう頑張ります。

⑤そのほか、気になったことがありましたらコメントお願いします。
字幕版だったので常に画面を見続けなければならず、疲れました。音量はご配慮いただけていたようですが、それでも一部のシーンでは大きく感じました。大きな音が出る前にアイコンなどで警告をだしてくれると準備ができそうです。ストーリーの一部について理解出来なかった点があり、なかなかうまく話についていけませんでした。贅沢なお願いですが、最後にどういう筋だったのか、種明かしの時間等があれば大変すっきりするのですが…
 
 
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『500ページの夢の束』
2018年9月7日(金)より新宿ピカデリー ほか全国ロードショー

 
 
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センサリーフレンドリー映画館、明るさや音量優しく 発達障害者向け試写会、出入り自由明示 – 毎日新聞デジタル毎日(外部サイト)
発達障害の方や家族へ「センサリーフレンドリー試写会」行われる – たーとるうぃず(外部サイト)
 
 
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