ウォルマート 米全店で毎日「センサリーフレンドリーな時間帯」がスタート
画像出典元:Walmart https://corporate.walmart.com/
ライターの青いロクです。これまでTENTONTOでは「クワイエットアワー」という、お店の照明のまぶしさを減らしたり、音楽を鳴らさなくしたりして、発達障害者が買い物しやすい環境にする取り組みを紹介してきました。音や光について感覚過敏がある子どもを連れた家族や、当事者が買い物しやすくなる時間帯を設けるものです。
先んじて取り組みが広がっていた海外では、クワイエットアワーと同等の「センサリーフレンドリーな時間帯」を、最大手企業 ウォルマート(Walmart)が、2023年11月から毎日行うようになりました。衣食住全般を扱う大規模店舗だけでも米国内で約3600店舗が対象であり、実施店舗数や頻度において、クワイエットアワーの取り組みとしては過去最大規模と思われます。今のところ終了期間は発表されておらず、今後継続して実施される見込みです。
日本語訳されているニュース、および公式ニュースリリースをもとに、ウォルマートの「センサリーフレンドリーな時間帯」の概要をお知らせします。
店内は薄暗く無音に。「 センサリーフレンドリー 」なショッピング時間を提供する食料品:新たな顧客層を呼び込める可能性も|DIGIDAY[日本版]
・ウォルマートは、米国とプエルトリコのすべての店舗で、毎日現地時間の午前8時から10時までをセンサリーフレンドリーな時間にすると発表した。
・「センサリーフレンドリーな時間帯」は、特定のニーズを持つグループの人々のためだけに時間を設けることと言える。しかしコンサルタントは、それだけにとどまらない 予想しなかったビジネス上の恩恵があったと推測している。
・感覚処理障害は、ADHD、ディスレクシア、PTSD、自閉症などがある人々によくみられ、人口のかなりの部分を占めている。その人らは、照明や音響の刺激が多い既存の食品店を、長時間滞在したくないと思っているかもしれない。
・「センサリーフレンドリーな時間帯」は、いままで食品店全体を避けてきたそれらの人々を新しい層の顧客として獲得できる可能性がある。(注:競合他店との奪い合いではない、静かな時間帯があるからこそ買い物する客を獲得できるということでしょうか)
・別のコンサルタントは、感覚過敏の子供を連れた親が、いままで急いで買い物を済ませていたのに対し、センサリーフレンドリーな時間帯があれば滞在時間が延び、より多く買い物をするだろうと指摘する。
・他の有識者は、センサリーフレンドリーな時間帯の実施には、店員が対応を研修する必要があるなどの課題があるものの、ウォルマートのような大手企業が標準のサービスとすることで、他社も追随する可能性を指摘する。
・食品スーパー ニューシーズンズマーケット(New Seasons Market)も週1回 同様の時間を設ける。ターゲット(Target)は、2店舗でテスト的に実施した。
・アルディ(Aldi)がすでに英国の100近くの店舗でセンサリーフレンドリーな時間帯をテストしており、これが成功すれば英国内の全店で実施するつもりだという。(注:ターゲットはウォルマートと同様に、衣食住全般を扱う大手企業です。ロードサイドに建設される平屋建ての大規模店舗 スーパーセンターと呼ばれる業態を主力とします。アルディは衣料はないようですが、同じく大規模店舗を展開します)
続いて、ウォルマートの公式ニュースリリース(英語)から「センサリーフレンドリーな時間帯」の実施内容を紹介します。
Small Changes, Big Impact: Sensory-Friendly Hours Return – Walmart
ニュースリリースに添付された動画によると、
・テレビ売り場やサイネージでは、映像ではなく、センサリーフレンドリーな時間帯を実施中である旨の静止画表示され、音声は流れていません。
・店内放送はありません。
・照明は通常時との違いが分かりませんが、まぶしさを軽減しているそうです。
B-Roll: Sensory-Friendly Hours(リンク先で動画を視聴できます)・ウォルマートはこの時間帯の設定により、客や従業員が、店舗が目や耳に優しいものだと、少しでも思ってもらうことを望んでいる。
・この取り組みは、(テスト時の)人々からの感謝すべきフィードバックに基づいている。それは店舗がその人らを受け入れていると感じるためにできることはどんなことか、というものだ。
・ウォルマート ストアマネージャーによれば、テスト時に何人かの従業員が、この取り組みを通年で実施したいと申し出た。店舗には自閉症やADHDの従業員がいるが、そのうちのある人は、会社がその人のためだけに何かしてくれたのは初めてだとコメントした。
・とくにホリデーシーズンは従業員にとってストレスが多い時期であり、彼らの落ち着きのためにも、マネージャーはこの取り組みが続くことを望む。
スーパーセンターと日本の商業施設の比較、
今後日本でもクワイエットアワーは広まるか
画像出典元:Walmart https://corporate.walmart.com/
ウォルマートの「センサリーフレンドリーな時間帯」。従業員からの声もきっかけとしていること、また経済効果が見込めるため同業他社への波及が予想されているということについて、私は心強く思いました。
ストアマネージャーによれば、「ある自閉症やADHDの従業員は、会社がその人のためだけに何かしてくれたのは初めてだとコメントした」とのことで、いままでの環境はあまりよくなかったのかとも感じました。
さて、日本でも 「センサリーフレンドリーな時間帯」と同様の取り組みであるクワイエットアワーを実施したり、テストを行っていたりする例が出始めています。日本でも、定期的にクワイエットアワーを行うことが広まっていくかどうか、考えてみたいと思います。
私はウォルマートの例と比較して、いくつか課題があると思います。日本と諸外国では、そもそも買い物の習慣や、店舗形態が大きく違うからです。
ウォルマート、ターゲットの主要業態であるスーパーセンターは、食品スーパーとディスカウントストアを組み合わせた、合計10,000m2ほどの店舗です。( スーパーセンター – Wikipedia )
平屋建て、集中レジ、平面駐車場を特徴とするこの業態は、建設費や運営の人件費を抑えることができますが、広大な土地があり、なおかつその周囲に一定の人口がある立地が適しています。日本でも同様の形態のスーパーセンターTRIALが展開していますが、地域ごとの食品スーパーとの競争が激しいようで、見かけにくい業態です。
スーパーセンターでは、数週間から1ヶ月程度の食品・日用品などの消耗品をまとめ買いし、さらに衣料品や家電なども買うことができます。日本人はこれを聞くと、生鮮食品をそこまで大量に買えないと思うかもしれません。しかし、アメリカでは生鮮食品よりもグロサリー(冷凍・冷蔵や常温で日持ちのする食品)を多く使うので、1ヶ月分ものまとめ買いができるのです。
まとめ買いのための店舗ということで、人々はある程度予定を決めてスーパーセンターを訪れるでしょう。その際に「センサリーフレンドリーな時間帯」が実施されているのなら、その時間を狙って予定を組んで買い物をしようと思うのではないでしょうか。逆に短時間しか買い物に割けないときは、センサリーフレンドリーな時間帯があっても都合が合わないかもしれません。
また動画にあったように、スーパーセンターは照明が均一に配置されており、電気回路を分けることによってまぶしさを軽減しやすいように見えます。
以上のように、スーパーセンター業態には、センサリーフレンドリーな時間帯(クワイエットアワー)を実施しやすい素地があったものと思われます。
日本においては、クワイエットアワーは一部の店舗で定期的に実施されています。
ドラッグストア ツルハドラッグでは一部店舗で、週に1回実施しています。( 「触られると火傷のような痛みを感じ 自分の声もうるさく…」感覚過敏の生きづらさ 広がる理解|TBS NEWS DIG・BSN新潟放送 )
家電量販店 ヤマダデンキは神奈川県 相模原市内の店舗で、月に2回実施しています。また今後は実施店舗を拡大していく計画とのことです。( 静寂の家電店、接客に優しく 感覚過敏の人も来やすく|日本経済新聞・日経MJ(会員限定記事) )
日本の食品スーパーは、照明演出を凝っている場合が多く、均一に減灯してまぶしさを抑えるのが難しいようでした。( イオンスタイル新百合ヶ丘での実施例のレポート|TENTONTO )一方でドラッグストアや家電量販店は均一に照明が配置されており、場合によっては減灯しやすそうです。
なお、発達障害の当事者としては、必ずしも照明を変更することにこだわる必要は無いようにも感じています。BGMなどの店内放送を止めたり音量を減らしたりすることでも、聴覚過敏の当事者にとってはありがたいです。私自身は買い物の際に、必ずノイズキャンセリングイヤホンを使っていますが、それでも騒音を負担に思うときがあります。
今のところ国内の動きは少ないですが、海外ウォルマートやアルディなどで「センサリーフレンドリーな時間帯」が実施されることにより経済的な裏付けが取れれば、企業は各店舗で配慮を行うための環境整備により意欲的になれるかもしれないと思いました。
日本で実施可能な形のクワイエットアワー、センサリーフレンドリーな時間帯について、より多くの方に興味を持ってもらえればありがたく思います。
青いロク
【関連記事】
・【レポート】川崎市 商業施設における「クワイエットアワー」の取り組み(イオンスタイル新百合ヶ丘) …食品スーパーでのクワイエットアワーのテスト実施例です。
・【北海道のドラッグストアチェーン、「クワイエットアワー」を実施 …ツルハドラッグのクワイエットアワーについて