センサリーを聴く:Clark『Clark』

ASD & ADHD MAGAZINE TENTONTO 編集長のユミズタキスです。

私達の冊子やこのサイトで度々お伝えしている言葉、センサリー。「感覚の」という意味の英語ですが、この単語が表すものは発達障害の当事者にとって、心安らかな生活を送るために欠かせない要素です。

とは言え抽象的な概念なので、捉えづらいのも事実です。新コーナー【センサリーを聴く】は、誰もがセンサリーと感じる曲やアルバムをご紹介して、センサリーを考えるよりも「体感」してもらおうという企画です。

記念すべき第1回は、イギリス・ワープ・レコーズの大御所、クラーク(Clark)の名を冠した2014年のアルバム『クラーク(Clark)』です。

ワープ・レコーズのオンラインストアBleepより、アルバムの説明をご紹介します。https://bleep.com/release/54341-clark-clark

没入的な”Phosphor”のライブと、近作12インチ”Superscope”でテクノ/レイヴ志向の作風を確立したClark。Warpからの7枚目のLPであり、セルフ・タイトルの新作”Clark”では、クラクラするようなメロディ溢れるセンサリー空間を構築するためにサウンドを活用している。

“Clark”から劇的に先行公開されたのは、収録曲”Winter Linn”。「ポッポッ」という音がひたすらと、非常にゆっくり広がっていく。

一方で”Unfurla”では、甘く、メロディックな旋律に対して不恰好なドラムの音を並べ立てる。

Clarkのあらゆるトレードマークを含む”The Grit In The Pearl”もまた、同様にドラマチック。滑らかなドラムの音の間に細やかな打音がさしはさまれ、大空間でメロメロになるような雰囲気を醸し出す。

訳:Yutani

Clarkはイギリス・バーミンガム出身のミュージシャン、音楽家、作曲家、DJで、エレクトロニカという音楽ジャンルのファンから絶大に支持されています。私は丁寧で美しい音作りと進行にとても感動します。自閉症スペクトラム症状をもつイラストレーターmarfさんも、好んで聴いているそうです。その回のマンガはこちら→テントント通信:どんな曲聴くんですか?

『Clark』は、そんな彼の入魂のアルバムになります。ぜひ聴いてみて、彼の作り出すセンサリーな音楽に触れてみてください。

ASDとADHDの当事者である私タキスの、アルバム『Clark』テントント聴き解きを以下に載せてみました。よろしければご覧ください。

1 Ship Is Flooding
Clarkの音楽の海にざぶっと沈められて、周りには彼の音しか無い。


2 Winter Linn
海の中の孤独で自分という生が顕になっていき、死へと向かう。アルバムが始まってすぐなのに、もう生を終えてしまった。


3 Unfurla
殻を無くした心が得た、夢と現実が交差したような高揚感。建築のように構成されたレイヴ。音にニューロンの輝きみたいなダイナミクスがある。Clarkの真骨頂。

4 Strength Through Fragility
宇宙にClarkとピアノだけが浮かんでいるような不思議な曲。とても繊細な、ハイパーなセンサリー。

5 Sodium Trimmers
一転肉体を思い出させるようなビリビリ来るビート。音とひとつになれる仕掛けに、体が作り変えられていく。

6 Banjo
参りました、という感じの”今”の詰め合わせ。かなり荒々しい、ハイポなセンサリー。

7 Snowbird
この辺りで集中が発散に変わり、気持ちもばらばらになる。郷愁を感じさせる音にアルバムを聴き始めるまえの自分が懐かしくなる。


8 The Grit In The Pearl
コンストラクティヴなレイヴその2。こちらは曲を聴いて疲れて柔らかくなった身体を受け止めるかのようなセンサリーさ。心のマッサージ。ここまで感動させてくれますか、という感じ。


9 Beacon
Clark式の洗礼といった、儀式めいた曲。

10 Petroleum Tinged
マッサージ曲2。きもちよすぎて動けなくなる。

11 Silvered Iris
リズム音楽のレッスンをしてもらっているような曲。頭の中が洗練される。

12 There’s A Distance In You
ああ、Clarkが言いたかったのは「踊り狂える心」を持って生きろってことかな、とひとり納得してしまう。再生、復活を感じる。丁寧に盛り上げてくれる、聴くものの心に寄り添う曲。緊張と解放の気持ちよさ。Clarkは裏切らないなあ、としみじみ。

13 Everlane
センサリースペースそのもののような曲。曲を聴き終わると心がとても平らかに、静かになる。この聴いた後の感じが、かけがえない。

ユミズ タキス