『発達障害のある人の就活成功バイブル』レビュー2

gentosha20151111
こんばんは。TENTONTO編集長のユミズタキスです。

この度幻冬舎メディアコンサルティング 様のご厚意により、11月11日に発売開始となった『発達障害のある人の就活成功バイブル』(小宮善継・著)をご献本いただきました。

TENTONTOでは数回に分けて、メンバーが本書籍のレビューをしています(前回はこちら)。本日の担当は私、ユミズタキスです。

 

『発達障害のある人の就活成功バイブル』を読んだ、ひとりの発達障害当事者かつ発達障害支援者の正直な感想
文:ユミズタキス
ASD & ADHD MAGAZINE TENTONTO 代表・編集長
生まれつき持つ発達障害傾向:ASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、SPD(感覚処理障害)

本書は日本社会における発達障害者雇用の実際について、支援者の視点から非常にリアルに記載された書籍と感じました。またp.125-128には感覚過敏(正確には感覚処理障害)についての記載もあり、私達TENTONTOが推進しているセンサリーデザインの重要性を示して頂けており、内容も先進的だと思います。テンプル・グランディン ケイト・ダフィー著『アスペルガー症候群・高機能自閉症の人のハローワーク』と合わせて、就職に関する当事者の強力な行動指針決定ツールになるのではないでしょうか。

私は発達障害の当事者であり、かつ発達障害者への支援活動を行っている者です。筆者の小宮善継さんが発達障害傾向をお持ちかどうかは本書には記載されておりませんでしたので不明ですが、発達障害当事者に寄り添った思考をされているというよりも、当事者の観察結果からノウハウを蓄積されている印象を受けました。『~~ハローワーク』は発達障害当事者であり支援者である著者の本のため、少し切り口が異なります。

日本での現状を正確に伝える本書のよさをより引き出すため、本文章ではあえて当事者に寄った目線で本書の感想を述べ、この「就活」という大きな問題に対してよりリアルなイメージを持っていただこうと考えています。

本書の文章を引用しながら記載していきます。なるべく注意を払って記載いたしますが、前後の文脈において正確性に欠ける可能性もあることをご承知の上でお読みください。もし興味を持たれましたらお買い求めになった上で、照らし合わせながらお読み頂ければ幸いです。
 

(前略)国内全体の身体障害のある人が約366万人であるのに対して、精神障害のある人は約320万人。(中略)「法定雇用率」が1.8%から2.0%に引き上げられたものの、実は精神障害のある人についての雇用の義務はなく、知的障害と身体障害に雇用は限定されています。
 また、企業の現場では業務の複雑化に伴い、高度なコミュニケーション能力を有した人材が求められています(中略)発達障害のある人の就職活動のハードルを一層高くする要因にもなっています。(p.4)

精神障害者は多数存在するものの、仕事内容は精神障害者に不向きであり、かつ法的な雇用の義務は無い。そんな日本社会の基本的なスタンスが示されます。当事者にとってはこう書かれていても、遠い星での話のように読んでしまい、ピンときにくい傾向があります。
 

発達障害のある人が社会に出た際に、トラブルになりやすい振る舞いの例として、次のようなものがあります。(p.20)

10個の例を挙げられています。これらの振る舞いが日本社会で致命的なものであるのかに、やはりピンとこない、もしくはトラウマを思い出して鬱になるのが当事者だと思います。ブックデザインとして前者の当事者向けに、この項目に対して情報の重み付けをより重くする必要があるかもしれません。
 

(前略)得意なことはずば抜けてできる人も多いので、できる部分とできない部分とのギャップから、「怠けている」「努力が足りない」などと誤解されがちです。(p.29)

発達にばらつきがあることそのものが発達障害の認定要件なので、ギャップがあること自体は当事者にとって自然です。当事者も多くの人のことを「尖った才能がない」「才能が足りない」などと誤解している節があるように思います。相互の認知のすり合わせが必要と私は考えています。
 

(中略)規模の大きな企業ほど雇用割合が高いことを示しています。(p.49)

サラッと書いてありますが、当事者が就職するためには大変重要な点と思います。大企業であればあるほど、効率化のもと職務の細分化が図られているため、尖った能力を活かしやすく、ひとりの不得手をフォローする人員も多いからです。
 

それでは、一般的に企業で発達障害のある人の採用が遅れている理由は何なのでしょうか。
私のこれまでの障害者雇用の経験からいうと、それは「知らないから」というひと言に尽きると思います。(後略)(p.52)

正確には、まずは「知らないから」であり、さらに言うと「知りえないから」だと私は感じています。感覚の違いのある人と共に働くことそのもののハードルが高いのが日本社会だと思います。
 

(前略)見た目に障害がわからず、かつ学歴が高かったりすると、職場で定型発達の人と同じことを要求されてしまい、それができないことでいじめや怒りの対象となるのです。(p.58)

職場に「いじめ」や「怒り」といった合理性に欠ける心的活動を持ち込むこと自体に理解が及びませんが、それだけ日本社会の職場環境に余裕のない状態が蔓延しており、かつ自分たちが総体として作り出せていない余裕を一社員に対して求める風潮が強いということだと思います。
 

(前略)自分から、「自分はこういう個性があり、ここは得意でここは苦手なのです」と発信できることがとても大切です。(後略)(p.63)

「ここは得意でここは苦手」という特性は発達障害由来(発達障害者同士では共通)なので、それを「個性」と表現するのは語弊のある表現だと思います。ここでの「個性」は下記の「自分自身がやりたいこと」に相当するはずです。
 

就労移行支援機関に通うことは、一生涯に最長でもたった2年という短い期間ですので、就労の意思がないときに使ってしまうのはもったいないのです。そういう場合はまず、自分自身がやりたいことを見つけてもらえるように話し合います。(p.93)

「自分自身がやりたいことを見つける」ことは全人類共通の大きな命題と思いますが、発達障害者はその命題に対して早期に答えを出し、動機付けを行わなければ経済的自立は容易ではない、という厳しい現実が示されています。
 

就職に向けて、徐々に生活リズムをつくっていくのに役立つのが「障害福祉サービス等の利用計画」です。(後略)(p.97)

たいへん実践的な手段と思いますが、理想を言えば発達障害者は発達障害者の生活のリズムがありますので、それを分析した上で、それに近い就労形態を探したり、すり合わせを行うのであればその歪みをどこで解消するか、など、総合的に改善を行わないとなにかの拍子に破綻しやすく、またそうなりやすいのが当事者と私は感じています。
 

障害者雇用となるといちばん大事なのが、自分の中で障害を受け止めているかどうかです。受容していれば、自分の特性を他人に話せ、自分の仕事をするうえでの強い面や弱い面、働くうえで職場側に気をつけてほしいことをすべていえます。そこがすべてだといっても過言ではありません。(p.113)

発達障害において多くの場合就労の困難を伴うケース、ASDにおいては、コミュニケーションの問題を抱えているため、自分のことをすべて言えるかどうかは懐疑的です。また他の発達障害特性においても精神障害であることを前提とした受容のあり方を見出さないと、誤解や無理解が深まる場合も多いと思います。受容の程度は障害特性の理解の程度に比例するため、受容している、していない、の二元論的思考に陥る危険性も踏まえて、この内容を扱う際には慎重さが求められます。もちろん、障害の受容自体が様々なよい効果をもたらすことは間違いないと思います。
 

(前略)一歩踏み出す勇気があれば何とかなります。私は、背水の陣の思いがありました。殻を破って挑んでいかないとうまくいかないと思います(p.151)

精神的なアドバイスとしては、この当事者Bさんの言葉がよいと思いました。「一歩踏み出す勇気」「背水の陣の思い」「殻を破って挑む」発達障害者への社会からの要求が高いために必要とされる要素を端的に表現していると思います。