感覚感受性からデザインする
センサリーデザインとは? 第2回
ASD & ADHD MAGAZINE TENTONTO 代表のユミズ タキスです。
このコーナーでは、私達TENTONTOが皆さまに一番お伝えしたいこと、センサリーデザインについて、僭越ながらご紹介させて頂きます。第2回は、センサリーデザインの考え方の中心にある、それぞれの人固有の感覚感受性についてご紹介します。
全英自閉症協会のサイトに、センサリーデザインについてよくまとまった記載がありましたので、ここから引用しつつ解説させて頂きます。
http://www.autism.org.uk/living-with-autism/understanding-behaviour/the-sensory-world-of-autism.aspx
私なりに和訳をしてみましたので、もし宜しければこちらもご参照下さい。
7つの感覚―視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚・平衡感覚・深部感覚 ASDを持つ方々はこれらのうちいくつか、または全ての感受性が鋭すぎるか鈍すぎる可能性がある。ここでは、感覚感受性のハイパー(敏感)とハイポ(鈍感)について述べる。
視覚
ハイポ かなり黒ずんでものが見えるか、いくつかの特徴が失われて見える。視野の中央がぼんやりしているが、周囲はかなりはっきり見える。ものの中心は誇張されて見えるが、輪郭がぼやけてみえる。距離感が掴めない。投げたり掴んだりに支障がある。うまくできない。
ハイパー 歪んで見える。ものやまぶしい光がちらついて見える。画像がばらばらに見えることがある。全体像を見るよりも細部に注目するのがたやすく、より楽しめる。聴覚
ハイポ 片耳で聞いている時、もう片方の耳からは部分的に、もしくは全く聞こえない。特定の音を認識しにくい。人ごみ、騒がしい場所を好み、ドアやものをドンドン叩く。
ハイパー 騒音が誇張され、歪み、混ざって聞こえる。とりわけ音に対して敏感で、例えば遠くの会話が聞き取れる。音を遮断できないために、騒音があると著しく集中が困難になる。触覚
ハイポ どれぐらいの強さで握るか測る前にぎゅっと握り締めたくなる。痛みを感じる範囲が広い。自傷行為をしがち。重たいものを体に乗せるのを好む。
ハイパー 触ると痛みと不快を感じる。触られるのを嫌がるので、コミュニケーションの障害になる。手足に物を付けるのを嫌がる。頭皮が敏感なので、ブラシッシングがや洗髪が困難。特定の種類の服、生地を好む。味覚
ハイポ とても辛い食べ物を好む。土、草、粘土など、あらゆるものを口にする。異食症として知られる。
ハイパー 特定の味や食べ物に強烈に反応する。特定の食感を嫌がる。一部の子供はマッシュドポテトやアイスクリームなど滑らかな食感の食べ物だけを食べる。嗅覚
ハイポ 一部の人々は一切臭いを感じないため、自身の体臭を含む酷い悪臭に気がつかない。一部の人々は臭いを嗅ごうとしてしばしば対象物を舐める。
ハイパー 強烈に臭いを感じる。そのためトイレ問題に発展する。特有の香水、シャンプーなどの臭いのする人を嫌う。平衡感覚
ハイポ 平衡感覚を得るために体を揺さぶったり、回ったりする。
ハイパー 自分自身の動きを制御するスポーツのような運動が難しい。活動中に急に止まるのが難しい。車酔いする。頭がまっすぐでない姿勢での運動や、地面に足のつかないような運動が難しい。深部感覚
ハイポ パーソナルスペースの距離がわからず他者に近づきすぎる。隙間を通り抜けたり障害物を避けるのが難しい。人とよくぶつかる。
ハイパー 留め具や靴紐など小さなものを扱う細かい運動技術が難しい。何かを見るとき全身で振り向く。
この文章では、ASDを持つ方々の感じている可能性のある感覚として、7つの感覚が紹介されています。この文章を読む際に気をつけて頂きたい点が3点あります。
1.感覚器由来ではない
目・耳・鼻・舌など、人には感覚器(センサリーシステム)と呼ばれる器官が備わっています。これらの器官は外部の情報を取り入れ、脳に信号を送る役割を担っています。脳に送られた情報は処理され、私達の意識として感じられるようになります。ここで言う感覚の多様性は、感覚器に違いがあるのではなく、脳の情報処理方法の違いに起因しています。
2.感覚ごとに度合いは異なる
一見わかりにくい記載になっていますが、ここで言う感覚感受性のハイパー(敏感)とハイポ(鈍感)は、感覚ごとに切り離して考える必要があります。具体例として私の感覚を挙げますと、触覚と嗅覚はハイパー、味覚と深部感覚はハイポ、視覚と聴覚と平衡感覚はどちらでもありません。もちろん、ほとんどの感覚がハイパー、もしくはハイポの方も想定できます。このように、組み合わせによって様々なタイプの感覚(世界の捉え方)があります。
3.ASDに関係があるだけではない
引用した全英自閉症協会のサイトではASDを持つ方々に特徴的に見られる感覚の違いと記述されていますが、程度の差こそあれ全ての人間がこのような感覚の違いを持っています。その中でASDを持つ方々にはより極端な違いとして現れる可能性がある、ということです。人は誰でも感覚の違いから、好みや生活スタイルを無意識のうちに決めていることも少なくありません。なぜなら、感覚はそれを感じる人にとってのスタンダードだからです。
今回は感覚感受性のハイパー(敏感)とハイポ(鈍感)について、簡単にご紹介しました。自分の感覚が自分にとってスタンダードなことは、当たり前のことです。その当たり前に従って行動すれば、人はそれぞれ違うことがよくわかります。人それぞれ顔が違い、自分の顔で生きていくのと同じように、人は自分の感覚で生きていく。そう私達TENTONTOは考えています。
次回は、感覚感受性のハイパー(敏感)やハイポ(鈍感)を持つ方々に、どのようにセンサリーデザインが適用されるかをご紹介させて頂きます。
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