『発達障害のある人の就活成功バイブル』レビュー3
先日、幻冬舎メディアコンサルティング 様のご厚意により、『発達障害のある人の就活成功バイブル』(小宮善継・著)をご献本いただきました。先月11月11日に発売開始となったばかりの新書です。
TENTONTOでは数回に分けて、メンバーが本書籍のレビューをしています(第1回・第2回)。第3回の今回は私、YutaniがBAP(幅広い自閉症の表現型)的視点からレビューをいたします。
発達障害当事者に対する、高効率で実利的な就職支援 −「経営者」の視点から−
文:Yutani
ASD & ADHD MAGAZINE TENTONTO メンバー(ライター)
生まれつき持つ発達障害傾向:BAP(幅広い自閉症の表現型)
本書は本文が179ページと比較的短く、また平易な表現を用いて文章が書かれており、大変読みやすい本となっています。
本文は全5章からなり、1・2章では統計データを引用しつつ、発達障害の当事者が就職活動を行う上での困難があるという現状を提起。3章では当事者が抱える困難さやそれを支援するためのプログラムを取り上げ、続く4章で支援施設でのプログラムの内容を具体的に紹介。5章では筆者自身が支援に携わり、就職活動の成功を収めた当事者の事例を5名、紹介するという構成になっています。各章の間には障害者支援全般に関係するコラムが挿入され、近年の法整備などに関する知識も得られます。
現状、日本では発達障害への根本的な理解が広まっておらず、また法制度の中にも、当事者自身の視点に立っていない部分が多々ある印象を受けます。しかし、発達障害を含む障害の当事者を「支援」しようという機運が高まっており、そのためのプログラムも充実してきているのは事実だと言えます。この現状をふまえて、筆者は当事者が「就職」というハードルを乗り越えるための高効率な方法を本書に記しています。こうした点で、本書の内容は大変現実的、実利的だと感じました。
前述の通り、5章では筆者が支援に携わった当事者の事例が5つ、紹介されています。この中でとくに私の印象に残ったのは、「【事例2】人生の目標を決めて生き生きと暮らすBさん」のエピソードです。周囲の環境や自分自身が変化することが怖い、精神的な余裕がなく、どうしても決め付けで行動してしまうというASD的特徴をもつBさんが、サポートを得つつ自身の特性を把握し、それに合った職場を選択できたという、筆者の支援が予期した通りに成果を挙げた端的な事例であると感じました。
本書は「経営者新書」というレーベル中の一冊です。そのレーベル名の通り、世間一般の経営者の目線に立ちつつ、発達障害の当事者が「職務への採用」という形で企業の人びとに認めてもらうための方策が事細かに記してあります。こうした切り口は、ベテランの経営者であり、また障害者雇用に長年携わってきた筆者ならではのものだと言えるでしょう。
「天職は必ず見つかる。」本書の中で、筆者はこの表現を繰り返し用いています。本書は、「発達障害的傾向をもつ人間」という大きな括りの中での特性を当事者自身が把握し、その特性に見合った「天職」を得るための一助となり得るのではないでしょうか。