システムに対する感覚の違い
センサリーデザインとは? 第6回
ASD & ADHD MAGAZINE TENTONTO 代表のユミズ タキスです。
このコーナーでは、私達TENTONTOが皆さまに一番お伝えしたいこと、センサリーデザインについて、僭越ながらご紹介させて頂きます。第6回は、『自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識』の著者でケンブリッジ大学の発達心理学者サイモン・バロン=コーエンさんの提唱する「共感化―システム化仮説」に登場する指標、システム化指数(Systemizing Quotient:SQ)をご紹介します。
「共感化―システム化仮説」は、ASDの社会性とコミュニケーションの困難について、「共感性の発達の遅れと障害」と、「完全か平均以上に強いシステム化の技能」との対比によって説明しています。前者の特徴を共感化指数(Empathy Quotient:EQ)、後者の特徴をシステム化指数(SQ)によって計測し、EQとSQの差(ディスクレパンシー)によってASDの傾向を判別します。共感指数(EQ)は近年日本でも広く知られつつある指数です。個人のシステム化の技能の度合いを示すシステム化指数(SQ)は、刺激に対する感覚の違いからデザインするセンサリーデザインについて、理解を深めて頂くひとつの指標にもなり得ます。
システム化指数(SQ)を調べてみよう
今回はイギリスの新聞社ガーディアンのサイトに掲載されているシステム化指数(SQ)の診断テストを取り上げます。書籍『自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識』に関しては、またの機会に詳しくご紹介させて頂きます。
http://www.theguardian.com/life/table/0,,937441,00.html
私なりに和訳をしてみましたので、もし宜しければこちらもご参照下さい。
システム化指数(SQ)
システム化指数(SQ)はあなた自身が後述するシステム化に対してどの程度関心を寄せるかの評価に基づいた値を与えます。システム化とはシステムの分析と探索の衝動で、システムの振る舞いを統べる基礎となるルールを抽出すること、そしてシステムの構築の衝動です。以下の60項目を注意深く読み、あなたにとっての賛成・反対がどの程度強いかを答えに丸をつけて評価してください。正しい答え、間違った答えは存在せず、また引っ掛け問題もありません。
テストの実施方法
1.このページをプリントして答えを丸で囲ってください。
2.このページの最後に説明されているポイントシステムを使ってあなたのSQの得点を算出してください。強く同意する 少し同意する 少し同意しない 強く同意しない
1.曲を聴いたとき、それを構成する手法にいつも気がつく。
2.社会一般の迷信に執着する。
3.よく決意するが、それにとらわれてしまうと思う。
4.フィクションよりノンフィクションを好んで読む。
5.もし私が車を買うなら、その車のエンジン能力の具体的な情報を得たいと思う。
6.絵画を見るとき、それを作るための複雑な技巧について通常は考えない。
7.もし自宅で電気配線のトラブルが発生したら、自分で治すことができるだろう。
8.夢を見るとき、翌日夢の細部を細かく思い出すことが難しいと思う。
9.映画を見るとき、ひとりで見るより友人のグループと一緒に見ることを好む。
10.数々の宗教を学ぶことに興味を持つ。
11.最新技術の記事やウェブページを読むことはめったにない。
12.高度な戦略を必要とするゲームは楽しくない。
13.どのように機械が動くかに魅了される。
14.毎朝決まってニュースを聴く。
15.数学で、数字を支配するルールとパターンに興味をそそられる。
16.私は旧友とコンタクトを取るのが苦手だ。
17.なにかを説明するとき、よく詳細を省いて何が起こったかの要点のみを挙げる。
18.家電製品付属のインストラクションマニュアルを理解することが難しいと思う。
19.動物を見たとき、なんの仲間の動物か正確な種を知りたくなる。
20.コンピューターを買うとき、ハードディスクの容量や実行速度の正確なディテールを知りたくなる。
21.スポーツに参加することを楽しむ。
22.できるだけ家事を避けるように試みる。
23.料理するとき、方法と材料が異なった場合どのように最終的な料理になるのかはっきりと考えられない。
24.地図を読んだり理解したりすることが難しいと思う。
25.もしCDやコインや切手のコレクションがあったら、それらをきっちりと整理するだろう。
26.家具を見るとき、それがどのように構成されているのかの詳細に気がつかない。
27.リスクを取るような活動のアイデアを魅力的に感じる。
28.歴史のできごとを学ぶとき、正確な日付に焦点を置かない。
29.新聞を読むとき、フットボールリーグのスコアや株式市場のインデックスのような情報の表に引きつけられる。
30.言語を学ぶとき、その文法のルールに興味をそそられる。
31.新しい街の地理を学ぶのが難しいと思う。
32.テレビの科学ドキュメンタリーを見たり、サイエンスやネイチャーの記事を読んだりする傾向がない。
33.ステレオを買うとき、正確な技術的特徴を知りたいと思うだろう。
34.賭け事においてどのくらいの勝算があるか正確に掴むことはたやすいと思う。
35.日曜大工をするときはあまり几帳面ではない。
36.会ったばかりの誰かと会話することはたやすいと思う。
37.建物を見るとき、それが建てられた正確な工法を知りたがる。
38.選挙が開催されているとき、各選挙区の結果に興味がわかない。
39.お金を貸したとき、支払の義務どおりにきっちり返済することを期待する。
40.銀行から送られる投資と倹約のシステムの情報を理解することは難しいと思う。
41.電車で旅行するとき、鉄道がどのように繋がっているかをよく想像する。
42.新しい家電を買ったとき、インストラクションマニュアルを徹底的に読み込んだりしない。
43.カメラを買うとき、レンズの品質を注意深くみたりしない。
44.何かを読むとき、文法的に正しいかどうかにいつも気がつく。
45.天気予報を聞いたとき、気象パターンにはあまり関心が湧かない。
46.よく自分が他の誰かだったらいいのにと思う。
47.一度に二つのことをすることが難しいと思う。
48.山を見るとき、それが正確にどんな形をしているか考える。
49.自分の地域の高速道路の繋がりをたやすくイメージすることができる。
50.レストランにいるとき、何を注文するか決めるのによく時間がかかる。
51.飛行機の中にいるとき、航空力学のことを考えたりはしない。
52.自分の参加した会話の正確なディテールをよく忘れてしまう。
53.土地を歩いているとき、木の様々な種類の違いに興味がわく。
54.誰かと一、二回だけミーティングした後で、参加者の容姿を正確に覚えることは難しいと思う。
55.川の源流から海への道のりを知ることに興味がわく。
56.法的な文書を非常に注意して読んだりしない。
57.無線通信がどのように機能しているか理解することに関心がない。
58.他の惑星の生命に好奇心がわく。
59.旅行するとき、訪れる土地特有の文化の具体的なディテールを知りたくなる。
60.見た植物の名前を知りたくはならない。あなたのSQの得点の計算方法
強く同意するを2点、少し同意するを1点として計算してください:1, 4, 5, 7, 13, 15, 19, 20, 25, 29, 30, 33, 34, 37, 41, 44, 48, 49, 53, 55
強く同意しないを2点、少し同意しないを1点として計算してください:6, 11, 12, 18, 23, 24, 26, 28, 31, 32, 35, 38, 40, 42, 43, 45, 51, 56, 57, 60
その他の全ての質問は計算しません。
あなたの得点の意味
女性の平均は約24点、男性の平均は約30点です。
0-19 = あなたのシステムを分析、探索するための能力は平均以下です。
20-39 = あなたのシステムを分析、探索するための能力は平均です。
40-50 = あなたのシステムを分析、探索するための能力は平均以上です。
51-80 = あなたのシステムを分析、探索するための能力は非常に高いです。この得点域のアスペルガー症候群を持った多くの人は、定型の男性と比較して3倍以上います、そしてこれだけの高得点の女性はほとんどいません。
システムの捉え方からデザインする
システム化指数(SQ)は、統計的に女性より男性の方が点数が高く、男性よりASDを持つ方の方が点数が高いという結果が出ています。この結果はASDの超男性脳仮説のひとつの根拠になっています。
感覚の違いについて考えるとき、それがセンサリーデザインとは? 第2回でご紹介した感覚感受性の違いにおいて生じているのか、それともシステム化指数(SQ)が示すようなものの捉え方の違いにおいて生じているのか、精査して判断する必要があります。例えば机に座っているとき目の端に映る壁紙の格子状の模様が見えて集中できない、といった困難を感じている人がいたとします。その原因として、目の端の方が注視に優れた感覚感受性を持っている場合、格子の明暗を強烈に感じる感覚感受性を持っている場合、システム化指数(SQ)が高く無意識に壁紙の模様の法則を見出し構造を理解したい衝動に駆られる場合、またはそれらの複合などが考えられます。
このように感覚感受性だけでなく、システム化指数(SQ)の度合いも考慮した上で、その人の感覚に寄り添ってデザインをしていくことが、センサリーデザインには必要となります。
続けて共感化指数(EQ)も調べられたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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